この本で解ける疑問は?
- 会計とファイナンスの違いって?
- 「ファイナンスを学べ」って言われたけど、何から学べばいい?
- そもそも、ファイナンスって何のために学ぶの?
『ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務』って?
-Why-なぜ書かれたのか?
筆者は、この本を誰に向けて、どんな内容で書いているか、次のように述べています。
この本は、ファイナンスのことを勉強しようにもどこから手をつけていいのか分からないビジネスパーソンや経営者の方々が、ファイナンスの基本部分をざっくりと理解できるような内容にしました。
「ざっくり」とはいっても、決して概略をなぞっただけの本ではありません。ファイナンスの習得に悪戦苦闘した私が書いたものゆえ、つまづきやすいところが手にとるように分かる内容になっているはずです。(7ページ)
「ざっくり」と学べて、しかも「薄っぺらい」と言われないくらいの知識が得られそうですね。
筆者が戦略コンサルタントにいらっしゃったこともあって、非常にわかりやすく実例を交えながら説明がされているので、「ざっくりとした理解」を得るにはもってこいといえるでしょう。
では、そもそもファイナンスとは何なのか?そこから見てみます。
-What-なにをすべきか?
何のためのファイナンス?
ファイナンスの定義について、筆者は次のように述べています。
要するにファイナンスとは、投資に関する意思決定(投資の決定)と、その投資に必要な資金調達に関する意思決定(資金の調達)と、そして運用して得たお金をどう分配するかという意思決定(配当政策)、これら三つの意思決定に関わるもの、ということです。(66ページ)
なるほど。「何のためのファイナンス?」という部分が明らかになりました。
では、もう一歩踏み込んで、そんな高尚なツールを使って、投資・資金調達・配当を意思決定しないといけない理由は何なのでしょう?
答えは、「企業価値を最大化するため」です。
あれ?「利益を最大化するため」じゃないの?と思われた方もいらっしゃるでしょう。
この疑問に対して、筆者は「会計とファイナンスの違い」に触れながら説明しています。
会計とファイナンスの違いって?
「会計とファイナンスの違い」については、次のように述べられています。
- 会計は「利益」を、ファイナンスは「キャッシュ」を扱う
- 会計は「過去」を、ファイナンスは「未来」を扱う
まず、1つ目の「利益」と「キャッシュ」について、本書の例を借りながら説明します。
例えば、車を200万円で売ったとします。車にかかっている費用は150万円です。
なので、50万の利益が発生することになります。
しかし、この支払いを「10年後でいいよ」ということにしていたらどうなるか。
車を売ったお金200万は当分入金されないので、車にかかっている費用150万円を払うことができません。
利益が発生しているのに、です。
こういう現象を「黒字倒産」といいます。
こういった考え方が浸透し、「利益」よりも「キャッシュ」に着目する企業が多くなっているそうです。
次に、2つ目の「過去」と「未来」についてです。
経営者が考えないといけないのは、「現在の投資が、将来どれくらいのリターンを生むか?」という論点です。
短期的な業績UPを優先して、現在の投資を我慢するのか。
それとも、投資なくして長期的な利益は得られないとし、短期的な業績UPは二の次にするのか。
こうしたテーマに思考を巡らせるためにも、「未来」を扱うファイナンスが注目されています。
では、この「ファイナンス」を学ぶためには、どのようなポイントを抑える必要があるのでしょうか?
-How-どのようにすべきか?
ファイナンスの「ざっくりとした理解」が得られるよう、本書は次の構成になっています。
第1章:会計とファイナンスはどう違う?
第2章:ファイナンス、基本のキ
第3章:明日の1万円より今日の1万円?お金の時間価値
第4章:会社の値段
第5章:投資の判断基準
第6章:お金の借り方・返し方(9ページ)
先ほど述べてきた内容は、第1章から第2章の前半にかけて説明されています。
では、どういう観点で他の章を読んでいき、ファイナンスを「ざっくり理解」していけばいいのか?
第2章以降を読む際のおすすめの視点をご紹介します。
第2章:ファイナンス、基本のキ
視点:ファイナンスの理解に必要な用語は何か?
リスク、資本コスト、負債コスト、株主資本コスト、リスクフリーレート、マーケットリスクプレミアム、WACC、ROIC、EVAスプレット
…と10個程度用語の意味を掴む必要がありますが、1個あたり1~2ページで説明されているのでご安心ください。
身構えなくて大丈夫です。
第3章:明日の1万円より今日の1万円?お金の時間価値
視点:「未来のお金」はどう評価するか?
ファイナンスは「未来」を扱うと述べました。
ですので、「将来どれくらいのリターンが見込めるか?」の「リターン」の部分を考える際に、どうしても「未来のお金の評価の仕方」を知る必要があります。
第4章:会社の値段
視点:「会社の価値」はどう評価するか?
先述の通り、ファイナンスの最終目的は「企業価値の最大化」です。
ですので、最終目的としての絵姿をどう描き、どう実現するのかを知る必要があります。
第5章:投資の判断基準
視点:投資の判断に、ファイナンスをどう使うのか?
先述の通り、ファイナンスは投資に関する意思決定に使うツールです。
ここでは、第2章で学んだファイナンスの用語と、第4章で学んだ「未来のお金」の評価方法を使って、知っていく必要があります。
第6章:お金の借り方・返し方
視点:資金調達や配当政策に、ファイナンスをどう使うのか?
ファイナンスは「投資に必要な資金調達に関する意思決定」「運用して得たお金をどう分配するかという意思決定」に使うツールでもあります。
第6章からいきなり読んでも理解は難しいですが、第5章までの「ざっくり理解」を持って読むと、スラスラ理解が進みます。
以上、今回は「何が学べるか?」「どう読めばいいか?」という視点で紹介してみました。
コンパクトな本ですので、通勤のお供としておすすめです。
学び
本書の中に次の式が紹介されています。
EVAスプレッド = ROIC – WACC(118ページ)
何のこっちゃ?という感じですので、簡単にニュアンスを中心に説明します。
- EVAスプレッド:企業がどれだけ付加価値を生み出したか
- ROIC:つぎ込んだ資本に対する本業の稼ぎ
(= 税引き後営業利益 ÷ 投下資本) - WACC:投資家が期待する最低限のリターン
つまり、経営者の使命とは、EVAをプラスにすること、といえるでしょう。
しかし、まだまだ「儲かった、儲からなかった」というような「利益」ばかりが重視されている気がします。つまり、ROICに意識が向きすぎている。
しかし、ROICを追い求めるだけが、経営ではないと気づかされます。
WACC、つまり投資家の期待値を適切にコントロールすることもまた、手段の1つです。
WACCを下げることでも、EVAをプラスに持っていくことができるからです。
日常の仕事の「期待値」コントロールの大事さを再認識
このEVAの話を読んでいて、「期待値コントロール」が頭に浮かびました。
EVAを「自分が出せる付加価値」と置き換えると、ROICは「どれだけ頑張ったか」、WACCは「相手の期待値」と言い換えることができるでしょう。
ここでわかるのが、どれだけ身を削って頑張っても、相手の期待値を理解してコントロールできなければ、自分が出した付加価値も低くなってしまう、ということです。
逆にいうと、相手の期待値を上げ過ぎずにコントロールできれば、少ない努力でも、付加価値を高めることができます。
どうしても「どれだけ頑張ったか」に目が行きがちなので、
生産性を上げるためにも、「関係者の期待値をどうコントロールするか」という論点に集中するクセを持ちたいと思います。
明日から取れるアクション1つ
- どんな仕事も「期待値」を納得いくまで(自分が疲弊しないレベルまで)
すり合わせる