以前、『藁を手に旅に出よう “伝説の人事部長”による「働き方」の教室』という本を紹介しました。
※レビュー『藁を手に旅に出よう “伝説の人事部長”による「働き方」の教室』
自分がいかに周りの意見を鵜呑みにしていたかを、嫌というほど思い知らせれた。一言でいうと、そんな本でした。
その著者が、今度はこんなタイトルで本を出版されていました。
これまたパンチが効いた本の予感がします・・・
果たしてどんな本だったのか、詳しく見ていきましょう。
『自分の頭で考える読書』とは?
本書は、『ビジネス書図鑑』『藁を手に旅に出よう “伝説の人事部長”による「働き方」の教室』といった人気本の著者、荒木 博行氏が執筆した本です。
筆者は長年ビジネススクールで教鞭を取っていた方ですので、「読み手に考えてもらうための、問いの投げかけ方」がとにかく絶妙なんですよね。
加えて、筆者はVoicyという音声メディアでも毎日のようにオススメ本を紹介されていて、かなりの読書家でもあります。
そんな筆者が語る「自分の頭で考える読書」とは、いったいどんなものなのか。
読む前からワクワクが止まりません。
ところで、「自分の頭で考える」とはどういうこと?
本書の魅力を語るためにも、まずは「自分の頭で考える」とはどういうことかを整理しておきましょう。
この本を読み解くに、自分の頭で考えるとは「問いと答えと論拠のセットを作ること」だと、私は解釈しました。
問いとは、白黒つけたいと思っている疑問のことですね。
例えば、『人生が変わる最高の呼吸法』という本があります。
この本の筆者が白黒つけたいと思っている問いは「数週間のうちに、健康状態がよくなり、体力がつき、運動パフォーマンスが向上するための秘訣とは何か?」です。
こういう問いを本から頂戴するのもアリですし、自分で問いをゼロから作ってみるのもアリ。
あるいは、本に書いてあった問いを見つめながら「この問いを解く必要はあるのか?」と考えてみるのもいいでしょう。
手段はなんでもいいので、「自分にとって向き合う意味のある"問い"と出会うこと」が大切です。
次に、答えについてです。
答えを考えるときは「問いに対して一言で答えるならば?」という視点で問いと向き合っていきます。
ちなみに、さっきの『人生が変わる最高の呼吸法』の「数週間のうちに、健康状態がよくなり、体力がつき、運動パフォーマンスが向上するための秘訣とは何か?」という問いに対して、筆者は次のように答えています。
「鼻呼吸に専念し、呼吸量を"減らす"べき」
こんな感じで、本から「答え」を拝借する方法もあります。
あるいは、「本当にこの答えは正しいのだろうか」「別の答えもあるのでは」と考えてみるのもいいでしょう。
問いと答えが見つかったら、最後は「答えに行きついた論拠」を考えていきます。
論拠というのも2種類あって
- なぜ必要か?…Why
- どうやってやるのか?…How
この2つを押さえておけば、答えの説得力も増すでしょう。
例えば、先ほどの本の「鼻呼吸に専念し、呼吸量を"減らす"べき」という答えの根拠について考えるなら、
- なぜ、鼻呼吸に専念し、呼吸量を"減らす"べきなのか?
- どうやって呼吸量を減らせばよいのか?
この2点を紐解いていきます。
以上のように、「問い」「答え」「論拠」を自分なりに全体観を持ちながら整理していく。
これが、「自分の頭で考える」ということです。
『自分の頭で考える読書』で語られていた「本の選び方」
本書のテーマは「自分の頭で考える」なので、体系だった読書方法などは紹介されておらず、「本の読み方は、自分で考えてね」というスタンスです。
しかし、「本の選び方」については、わりと具体的に紹介されていました。
本の選び方は大きく3種類あって、
- 問いを発見できる本
まだ向き合ったことのない問いを提供してくれる本。向き合ったことがない問いである以上、得られる答えも新しいはず。 - 答えを発見できる本
すでに向き合ったことのある問いに対して、新しい答えを授けてくれる本。
例えば「仕事ができるとはどういうことか?」はよく見かける問いだが、これに対する答えは様々。 - 既知のリマインドをしてくれる本
すでに知っている問いと答えを提供してくれる本。「知っているけど、実践できていないとき」なんかに読むと効果的。
この3種類を意識しながら本を選んでいくとよいそうです。
個人的には、このポートフォリオの考え方を知れたのは大きな収穫でした。
最近は読む本が「3.既知のリマインドをしてくれる本」に偏っていたなーと気づかされたからです。
「最近、なかなか新しい問いと出会ってないなー」と思ったときは、問いを発見できる本を。
「問いはいっぱいあるんだけど、なかなか答えのヒントが見つからないなー」と思ったときは、答えを発見できる本を。
そんな考え方で本を選んでいけると、読書のクオリティが格段に上がりそうです。
「手段の引力」に気を付けよう。読書の醍醐味は「具体と抽象の行き来」
もう1つ、印象に残ったキーワードがあります。
それは「手段の引力」というものです。
たしか『藁を手に旅に出よう “伝説の人事部長”による「働き方」の教室』でも登場したキーワードだった気が。
手段の引力とは、「目の前の作業や、具体的に目に見えるものに、目が行きがち」ということです。
目の前の作業をこなすのは簡単だし、作業をしていると安心感も得られるので、「手段の引力」の強さは計り知れないですよね。
しかし、具体的な手段ばかりに目が行ってしまうと、「抽象的に考える力」が養われません。
抽象化は難しい技術ですが、身につけておくと色んな場面で役に立ちます。
学びの量が増えるんですよね。
例えば、以前『アンパンマンから学ぶ「目的の二重性」』という記事を書きました。
- アンパンマンを倒す目的と、人からモノを奪う目的。この両方の目的を、バイキンマンは追いかけてしまっている
- 目的がブレているから、バイキンマンはいつもアンパンマンに負けてしまう
- 仕事においても、目的は1つに定めることが大切なのではないか
・・・ざっくり、こんな学びを抽出しました。
抽象化を使うと、一見すると仕事と全く関係ない「アンパンマン」からでも、仕事に役立つ学びを得ることができます。
この「具体と抽象の行き来」が、読書の醍醐味なわけです。
ただ最近、「具体と抽象の行き来」を妨げる本を多くみかけます。
「○○大全」とか「〇〇図鑑」とか「〇〇のための77のコツ」みたいな本です。
こういう本は、びっしり大量のページ数をつかって「超具体的なこと」を教えてくれます。
まさに「手段の引力」を最大限活用した本ですね。
ただ、こういう「手段を提供することに振り切った本」では、なかなか抽象化する力が養われません。
柔らかいものばかり食べても咀嚼力が身につかないのと一緒です。
「手段の引力」に負けないよう、骨太な読書を心がけたいものです。