これまでAmazon社の制度や仕組みを紐解いた本をいくつも読んできましたが、個人的にはこの本が一番「Amazonの本質的な仕組み」に触れているように思います。
制度や仕組みの内容だけでなく、そこに至るまでの試行錯誤や失敗事例まで、500ページにわたって事細かに記されているからです。
なぜ、そこまで詳細に記せるのか。
それは、筆者が「Amazonが数十人規模の時期から、CEOの懐刀として事業拡大を支えてこられた方々」だからです。
よく「外資系企業で働いてみてわかったこと」みたいな本を見かけますが、そういった本とは比べようがないほど深いんですよね。
なぜなら、「外資系企業で働いてみてわかったこと」みたいな本って、基本的に「すでに出来上がった仕組みの恩恵を受けている人」が書いているからです。
でも、『アマゾンの最強の働き方』は、そういった仕組みを汗水流して作った人が書いています。
だからこそ、どんな課題に直面して、どんな施策を打ったら失敗して、どうやって解決したのか…まさに「思考の跡」が深く刻まれている本、それが『アマゾンの最強の働き方』です。
制度や仕組みの内容といった上辺の情報だけでなく、その裏側にある「思考の跡」まで知っておいたほうが、自社で真似するときも参考にしやすい。
そういう意味では、「Amazonの仕組みを研究して、自社にも導入したい」と考えている人に一番お勧めしたい本です。
そんな本書から学んだことを3つご紹介いたします。
学び1:依存関係が少ない組織=自律的に動きやすい組織
1つ目は、自律的に動きやすい組織を作るためには「依存関係」を減らしましょう、という話。
これは目から鱗が落ちました。
組織が大きくなればなるほど、依存関係も多くなります。
「あの人に確認しないと進められない」の「あの人」が多ければ多いほど、依存関係が多い組織といえます。
例えば、ホームページに何かの案内を表示するにしても、東京支店・大阪支店・福岡支店・北海道支店・名古屋支店のすべての承認を得なければいけない…みたいなイメージですね。
この事象は、組織が拡大すると、どうしても直面しがちです。
というのも、メンバーが1人増えると、コミュニケーションのルートはそれ以上に増えていくからです。
数学の組み合わせで習いましたよね、「C」ってやつ。
例えば、組織に3人いるときのコミュニケーションのルートは「3C2=3×2÷2=3通り」です。
しかし、組織のメンバーが1人増えるにつき、コミュニケーションのルートは次のように増えていきます。
- 組織が4人になると、4C2=4×3÷2=6通り
- 組織が5人になると、5C2=5×4÷2=10通り
だから、権限や業務を整理整頓しないまま組織が拡大すると、コミュニケーションのルートがどんどん複雑化していく。
結果として「あの人に確認しないと進められない」の「あの人」が多すぎて、思うように動けなくなる。
具体的には、メールのCCに入れる人数が二桁を越えるとか、ミーティングの参加人数が20人とか30人に膨らむとか。
これが、依存関係が多い組織のイメージです。
Amazonも、この依存関係が多すぎる問題に直面したそうです。
この問題を解決するために、Amazonは依存関係を減らす試みを行いました。
具体的には、
- 関連性が高い業務を行っている人たちを小さいチームの単位でまとめる。小さいチームの単位とは、具体的には10人以下。Amazonではこれを「ピザ2枚ルール」と呼ぶ
- 次に、チーム同士の依存関係を最小化させる。チーム同士の調整が必要な場合も、調整の方法を明文化しておくことで、直接のやりとりを最小化させる
例えば、先ほど例にあげたように、ホームページに何かの案内を表示したいとき。
これまでは、東京支店・大阪支店・福岡支店・北海道支店・名古屋支店すべてに承認を取らないと、案内の表示ができなかったとします。
これだと、依存関係が多いですよね。
これを、まずは「ホームページに案内の表示させるチーム(Aチームとしましょう)」を10人以内で編成します。
このチームは、全国の各支店の承認を取ることなく、ホームページに案内を表示させることができる権限を与えます。
しかし、全国の各支店の人たちも、ホームページに何か案内を載せたいシーンもあるでしょう。
そういうときのために、「各支店の人たちが、ホームページに案内を載せる手順・フロー」を明文化しておきます。
そうすれば、各支店の人たちも、いちいちAチームとミーティングをして調整をする必要もなくなります。
・・・だいぶ単純化しすぎましたが、こんな感じで、
- 組織を小さいチームの単位に分ける
- チーム同士の調整を最小化する
この2点を追求して、依存関係を徹底的に少なくすることで、自律的な組織を作っていくことができます。
概念的に図示すると、以下のようなイメージですね。
学び2:徹底的に明文化する
ここまで述べたような「依存関係が少なくてすむ組織」を作るためには、いちいち調整しなくていいように、フローや決まり事を明文化しておく必要があります。
何かをやりたいときに、誰かに聞かなくても、文書を見てセルフサービスで対応できる。
そのための明文化の意識を、AmazonはDNAに刻み込まれるレベルで徹底しているなと痛感させられました。
例えば、Amazonの会議ではパワーポイントや口頭説明が禁止されています。
代わりに、叙述式の文章で表現された6ページ程度のワードの文書を使用します。
要は、口頭説明がなくとも、「読めば誰でもわかる状態」で情報を明文化しておけ、ってことですね。
資料が「読めば誰でもわかる状態」なので、会議は資料の黙読からスタートします。
そして黙読し終えたタイミングで、やっと議論に入ることができる。
これが、Amazonの会議の標準形だそうです。
ここまで明文化にこだわる組織だからこそ、マニュアルや標準フローも充実させることができ、「誰かに聞かなくても、セルフサービスで業務を遂行できる状態=依存関係が少ない状態」を実現できるのでしょう。
学び3:自分よりも優秀な人を採用する
「依存関係が少なくてすむ組織」を作るためには、他にも必要なことがあります。
依存関係が少ない組織では、何かをやりたいときに、誰かにいちいち聞くことなく、メンバー1人ひとりが自律的に意思決定しながら動いていかなくてはなりません。
自律的に意思決定しながら動く…これは、高い能力を持っている人ではないと、なかなか難しいことです。
しかし、Amazonでは、こういった能力がデフォルトで求められます。
では、どうやって、そういった優秀な人材を集めているのか。
その秘密は、バー・レイザー(バーを上げる人)方式なる採用手法にありました。
この名称には「新しく採用するたびに、バーを上げよ」という想いが込められています。
言い換えると「新しく採用する人は、すでにいる社員よりも少なくとも1つ(できれば多く)の重要な点で秀でている必要がある」という意味です。
この採用基準を維持するために、バー・レイザーと呼ばれる採用のスペシャリストが、必ず採用プロセスに絡むそうです。
しかも、採用面接のフィードバックを社内で行うときは、口頭説明は厳禁。すべて文書で行われるそうです。
ここでも、徹底した明文化が行われている点は驚きですよね。
何かしらで突出した結果を残している企業は、得てして「引くような(真似もしたくないような)仕組み」があるものです。
日本電産がコスト削減のために実施していた「1円稟議」しかし、トヨタが不良品を出さないために作り上げた「トヨタ生産方式」しかり…それらの実情を記した本を読んでみると、「うわ、ここまで徹底するとか変態でしょ」と言いたくなる仕組みだとわかります。
以上、『アマゾンの最強の働き方』で特に印象的だった学びを書いてみました。
他にも、評価指標の話や、顧客視点を業務に埋め込む方法論などが、惜しげもなく記されています。
読めばよむほど、それらの仕組みが単体で成り立っているのではなく、複数の仕組みが生態系のように絡み合って成立しているのがよくわかります。
その複雑さゆえ、何度も何度も読んで噛みしめたくなる、そんな不思議な魅力をもった本でした。