スキルセット 深く考える 番外編

「そもそも質問」にも2種類ある。ベースゼロとゼロベース

「この業務ってそもそも必要なんですか?」

誰もが何度か聞いたことある質問でしょう。

ぱっと見、かなりの破壊力を備えた、鋭い質問に見えます。

しかし、この「そもそも質問」にも2種類ありまして。

  1. 誰もが抱いていた固定観念をぶち壊して、ブレイクスルーをもたらしてくれる「本質的なそもそも質問」
  2. どうでもいい論点を毎回ほじくり返され、これまで積み上げてきた議論をぶち壊す非生産的な「的外れなそもそも質問」

感覚的には、2のパターンと出会うシーンが多いように思います。

「え、今そこを議論するの?」

「そんなとこまでほじくり返す意味ある?」

「てか、この前もそれ議論したよね?」

…と思うシーンが多い。

しかし、あくまで感覚的であって、明確にこれら2つのパターンを区別できずにいました。


ただ、最近ふと、2つのパターンの違いがわかってきまして。

ゼロベース思考とベースゼロは違う、ということです。

スルーしてOKな常識を疑うのは、ゼロベースではなく「ベースゼロ」

書店にいくと、「ゼロベース思考が大事だ」と主張している本がいくつか置いてあります。

なぜゼロベース思考が大事かというと、「VUCAの時代だから!」って決まり文句を言っておけば、とりあえずご納得いただけるかと思います。


では、ゼロベース思考とは何か?

私は、次の定義だと思っていました。

「ゼロベース思考とは、前提や常識を疑うことである」

しかし、最近は「あれ、この定義、ちょっと違うくね?」と思えてきまして。


もう少し疑問を言語化すると「何でもかんでも疑えばいいってわけじゃないよね?」ということ。

言い換えれば「疑うべき常識」と「スルーしてもOKな常識」がある。


そして、「スルーしてもOKな(議論に時間を割くべきでない)常識」ばかり疑うことは、

「ゼロベース思考」ではなく「ベースゼロ思考(もはや思考ではない気もするが…)」なんじゃないか、と思うわけです。


例えば、「この業務ってそもそも必要ですか?」という質問があります。

この質問をする前に

  • この業務をなくすと、何が困るのか?ほかの業務や自社サービスの全体整合性に、どんな影響が出るのか?
  • この業務をなくすことで生まれるメリットデメリットと、残しておくことによるメリットデメリットはどうか?
  • ここで「そもそも」と投げかけることで、誰がどんな顔をしそうか?

…まで思いを馳せたうえで、あえて「そもそも」と質問しているのであれば、それは「疑うべき常識を見抜こう」と努力している点において、立派な「ゼロベース思考」です。


しかし、上に述べたようなことを全く思考せずに、目についたものを、思いつきだけで脊髄反射的に「そもそも必要ですか?」と質問する。

これは、何も自分の頭で考えていない。だから、「スルーしてもOKな常識」まで毎回ほじくり返してしまう。

脳みそ空っぽ質問という意味で「ベースゼロ」と表現できます。


ゼロベースなのか、ベースゼロなのか…質問をされる側がこの2つを見極めるのはかなり困難です。

ベースゼロだと思ってはねのけた質問が、実は本質的なそもそも論だった、なんてこともあるからです。


したがって、質問をする側が「ベースゼロではなく、ゼロベースに考えなきゃ」と意識をするしかないかと。

ゼロベースで考えるためには、リベラルアーツが必要

では、ゼロベースで考えるにはどうすればよいのか?

先ほどの例を再掲します。

「この業務ってそもそも必要ですか?」という質問を、ゼロベース思考を使って行う場合は、以下の点に思いを馳せる必要がありました。

  • この業務をなくすと、何が困るのか?ほかの業務や自社サービスの全体整合性に、どんな影響が出るのか?
  • この業務をなくすことで生まれるメリットデメリットと、残しておくことによるメリットデメリットはどうか?
  • ここで「そもそも」と投げかけることで、誰がどんな顔をしそうか?

質問する前に、ここまで想像する、いわゆる「想像力」が大事だということでしょう。

しかし、想像するにしても、とっかかりとなる情報がなければ、何も頭に思い浮かんできません。

そこで重要なのが、リベラルアーツです。

山口周氏の『自由になるための技術 リベラルアーツ』によると、

リベラルアーツとは、

自由になるための技術であり、

真理を見極めるための技術であり、

「疑うべき常識」と「スルーしてもOKな常識」を見極める技術を意味しています。


例えば、「この業務はそもそも必要なのか?」に思いを馳せるためには、その業務の裏側にある原理原則を紐解くべく、オペレーションやサービスマネジメントの理論を知っておくとよいでしょう。

あるいは、もっと本質的に突っ込もうと思えば、オペレーション理論の裏側にある「物流史」なんかを知っておくと、より深い考察ができるかもしれません。

さらに、会議中に「この業務ってそもそも必要ですか?」と問いかけたときに、誰がどんな顔をしそうか?をシミュレーションするためには、心理学や組織論を学んでおくと、より効果的です。もしくは、小説や戯曲にたくさん目を通しておくと、周りの感情の変化に敏感になれるかもしれません。


以上のように、リベラルアーツで足腰を固めておくと、とんちんかんなベースゼロ質問ではなく、本質的なゼロベース質問を投げかけることができるはずです。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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