キャリア マインドセット 書評

【要約・書評】『スタートアップ的人生戦略』

「あなたの10年後のキャリアプランは何ですか?」

いろんな面接で聞かれるこの質問、私は大嫌いです。

なぜなら、10年後のキャリアプランなんて考えたところで、それ通りにはいかないから。
いつどんな技術が出てくるか、いつどんなライフイベントが起こるか、誰にいつどんな誘いを受けるか、そういった予測不能の変数によってキャリアなんてコロコロ変わるのだから、10年後のキャリアプランを丁寧に考えても、さほど役には立たないのではないか。

それよりは「自分の譲れない軸」を3本くらいドシっと定めておいて、あとは成り行きに任せる。
乗りたい波があったときに、いつでも乗れるよう、知識やスキルは鍛えておく。

・・・くらいの考えじゃダメなの?と思っていましたが、なかなかこの考え方を支えてくれる本が見当たらない。
そういう心細い思いをしていたのですが、最近ようやく味方になってくれそうな本が出てきました。

スタートアップ的人生戦略』です。

『スタートアップ的人生戦略』とは?

本書は、Linkedinの創業者らが執筆した「キャリアのバイブル」的な本です。
2012年に出版された『スタートアップ! シリコンバレー流成功する自己実現の秘訣』をベースに、大幅アップデートが加えられているとのこと。

10年前の初版から変わっている部分もあるのですが、一方で変わらない主張もあります。
10年前から変わらない本書のスタンス、私なりの理解を示すと、以下のとおりです。

  • 先の見えない時代を生き残っているスタートアップ企業の経営手法を、同じく先の見えない時代に直面している「個人のキャリア」にも当てはめよう
  • 一瞬先に何が起こるかわからない。限られた情報。苛烈な競争。不確実性やリスクから逃れられない。・・・そんな中で「絶えず適応を繰り返す力」「やり直す力」を鍛え、来るチャンスを見逃さないことが重要である

数十年後のことを綿密に設計する、というよりは、どんな変化が来ても適応できるようにしておく。
そんなしなやかさにフォーカスしているのが、本書『スタートアップ的人生戦略』の特徴です。

キャリアプランの「3つの歯車」

本書の学びメモを1枚で示すと、次のとおりです。

目まぐるしい環境への「適応力」を上げるためには、「3つの歯車=資産×大志×市場環境」を回していく必要があるそうです。

歯車1:資産

1つ目の「資産」は、ハード資産とソフト資産に分けられます。

ハード資産は、お金や家や車などの目に見える持ち物のこと。
ソフト資産は、知識やスキルや人的ネットワークのこと。

どちらの資産を増やせばよいかというと、本書は「ソフト資産一択」と主張しています。

 

また、ソフト資産の伸ばし方についても、最初はニッチな分野でのスペシャリストを目指し、(ジェネラリストになりたい人は)そのあとにジェネラリストを目指すとよい。そのように主張されていました。

というのも、最初からジェネラリスト志向で経験を積み始めると、スペシャリストと比べて、周りにアピールできる提供価値が定めづらくなります。
「私の提供価値は〇〇です」とアピールがしやすいと、そのぶん他の人とのネットワークも築きやすくなるのですが、ジェネラリストはそれが難しい。
だから、最初はスペシャリストからスタートしたほうがいい。
・・・というのが、本書のスタンスです。

このスタンスは、私も共感しました。
私自身も、最初はCRM(顧客管理)やSFA(営業支援)のシステムを専門性として極めて、そのあとはDX全般の領域に挑戦し、ジェネラリストに移行しつつあるためです。

とはいえ、別にジェネラリストとしてキャリアをスタートした人の中にも、活躍している人は山ほどいるので、「ジェネラリストとスペシャリスト、どっちを先に目指すべきか?」はそんなにこだわらなくてもよいのでは?とも思います。

歯車2:大志

2つ目の歯車は「大志」。

キャリアを考えるときの、コンパスみたいなものですね。北なのか、南なのか、向かう先をざっくり示してくれる、そんな存在。

そして、キャリア資本(経験やスキルや人的ネットワーク)が多ければ多いほど、自分の大志と仕事を重ねやすくなる。
だから、最初は多少我慢してでも、キャリア資本の蓄積に専念をする。ある程度キャリア資本が積み重なってきたら、やりたいことに挑戦してみる。

そんな考え方が大事になると、本書を通して改めて実感しました。

ちなみに「大志」なり「小志」なり「志」について考えたい場合は、『志を育てる』という題名のとおりピッタリの本があります。ついでなので、紹介させていただきました。

 

歯車3:市場環境

どの市場に身を置くかも非常に重要なポイントです。

転職の思考法』にも「マーケットバリューは①技術資産、②人的資産、③業界の生産性の三つで決まる」と書いてあるくらい、業界の生産性は業界ごとに大きく異なります。例えば、金融業界を選べば、それだけで他業界よりも相対的に給与が上がります。同じマーケティングの仕事をしていようと、金融業界とそのほかの業界とでは、給与に大きな差が出ます。

ちなみに『スタートアップ的人生戦略』では、市場環境(≒業界)を選ぶポイントとして、次のことを教えてくれます。

  • 職種ではなく「業界」を選ぶ。魅力的な業界では、魅力的な経験・能力が手に入る機会が多いため
  • 「未開拓のニッチ分野」に身を置く。自身の希少性が上がるため

いずれも納得感のあるメッセージです。

もちろん、未開拓のニッチな分野は、出回っている情報が少なくて怖い部分はあります。
・・・が、私自身、現在、未開拓なニッチ分野のスタートアップをお手伝いしていて、「未開拓で全部ゼロから考えなきゃだけど、レアな体験しているな」と肌で感じています。

ABZプランニング

ここまで述べた「3つの歯車=資産×大志×市場環境」が整ってきたら、次にABZプランを立てていきます。要は「3つの選択肢を持っておこうね」ということです。

プランA:現状のまま前進する

プランAは「現状のまま前進する」選択肢です。

現状を改善しながら、経験や能力をキャリア資本として積み上げていく。一番イメージがしやすい選択肢でしょう。

プランB:学びながら、プランAから方向転換する

プランBは「学びながら、プランAから方向転換する」選択肢です。

軸足を置いている業界を変えるとか、身につけるスキルを変えるとか、大きな方向転換を行うイメージです。

このプランBは、体験を通して試行錯誤しながら見つける必要があります。机上の空論で考えてばっかりでは、見えてこない選択肢ということです。

しかも、100%情報が出そろうこともないため、「80%くらいいけそうだな」と思ったらGOサインを出す。それくらいの勢いが重要とのこと。

ただし、ミスるとヤバいので、副業などスモールスタートで始めると、リスクを軽減できます。
この「いきなり100%振り切った意思決定はするな」という考え方は、『人生のリアルオプション』にも通じるものがあります。

プランZ:救命ボートへの避難

プランAやBがダメだったときの、万が一の選択肢。それがプランZです。

安心で確実なプラン。例えば、「いざとなったら実家に帰る」くらいのレベルの選択肢も必ず持っておきましょう。

この「万が一の選択肢」があるかどうかで、心持ちが180度変わってきます。

これは友人の話ですが「副業をはじめて心が楽になった。"本業の職場がいやだったら、副業先に転職すればいいや"と思えてから、一気に気軽になったわ」と言っていました。プランZが心身にもたらす効果は測りしれないようです。

以上、『スタートアップ的人生戦略』について好き放題、書いてみました。

本書の主張や根拠も有益ですし、語られているLinkedinのエピソードなんかも読み物としてシンプルに面白いので、オススメの一冊です。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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