以前から「どうやって書評を書いているんですか?」と聞かれることがたまにありました。
そのたびに「なんでそんなこと聞くんだろう?書評を書く機会なんて、書評ブログ書く以外なくないか?」と思っていましたが、
私が思っている以上に、書評を書くシーンは多いようです。
「Amazonなど買った本のレビュー欄にコメントしたい(そのときに、「役に立った」をつけてもらえると嬉しい)」
「Twitterやinstagramに読んだ本を共有したい。そのときに、いい感じにレビューコメントを書きたい」
「会社で"おすすめの本"をプレゼンするように言われた」
・・・などなど、場面が違えど、「やっていることは書評を書くのと一緒」なアクティビティがいろいろあるそうで。
そこで今回は、どれくらいニーズがあるかわかりませんが、
「書評の書き方」について書いてみます。
なぜ私が「書評」を語るのか?
まずはそもそも「君に書評を語る資格はあるのかね?」と思っている方もいらっしゃると思いますので、簡単に前置きを。
私の書評エピソードをかいつまむと、以下のような感じです。
- 1500冊以上を読み、400以上の書評記事を書いてきた(外部メディアにも寄稿実績あり)
- 書評活動を題材に、著書『投資としての読書』を出版
こんな経歴なので、「どういう観点で書評を書いてきたか」くらいであれば、論じる資格はあるかと。
そもそも「書評」とは何か?
書評とは「本にツッコミを入れていく思考作業」のことです。
「・・・は?」と思われた方、すみません。もう少し補足いたします。
書評とは、読んで字のごとく、書を評すること。
言うまでもなく、「書」は「本」を意味しています。
そして「評」は「批評」を意味しています。
批評とは、物事の是非や善悪について論じることです。
・・・が、小難しいので、私は「ツッコミを入れる」と表現しています。
ツッコミとは「おれもそう思うよ」なのか「なんでやねん。違うやろ」なのかの反応を示すこと。
そしてツッコミを入れるためには、「どう思うのか」「なぜそう思うのか」を考えなくてはなりません。
なので「思考作業」というキーワードも、書評の定義に入れ込んでいます。
まあ、人によっていろいろと定義はあるでしょうが、
この記事では「書評=本にツッコミを入れていく思考作業」としておきます。
何のために「書評」を書くのか?
では、この書評はいったい何のために書くのか?
この問いに正解はありません。人によって様々ですから。
ちなみに私は、次の目的で書評を書いています。
- 自分が好きな本の魅力を発信するため(自分が好きなモノは、他人にも薦めたくなりますよね)
- 本を題材に、考える力を鍛えるため
- 読んだ本の備忘録を残すため
3つの目的をバランスよく追うときもあれば、どれか1つの目的に振り切ることもあります。
まあ、あんまり気にせず、好きに書けばいいと思います。
変に「本の魅力をわかりやすく伝えなくちゃ」と肩に力を入れすぎると、楽しくなくなり、続かなくなりますから。
どうやって「書評」を書くのか?
ここからが本題の「書評の書き方」の話。
書評の対象は「ビジネス書」「教養本」としておきます。
(小説はまた違った書き方になるかと思いますので)
本を読んで理解する:コツは「回転数」を上げること
まずは本を読んで理解せねばなりません。
本の読み方については、速読や精読の仕方などを語っている「読書術系の本」に譲りたいと思います。
(例えば、『投資としての読書』とか)
ちなみに、私が意識していることを少しお伝えすると、
1回あたりの読む時間を減らして回転数を上げること。
このポイントを意識しています。
そもそも本を読む時間は「1回あたりの読む時間×回転数」で決まります。
この式でいうと「本を読むときは、同じ時間をかけたとしても、最初から最後までじっくり熟読するよりは、ざっくり何周も読むほうが効率的である」というスタンスに立っています。
本の難易度やページ数にはよりますが、具体的には、以下の手順で「回転数」を意識して読んでいます。
- 最初の3周は、理解しようとせずに「ただ眺めるだけ」の感覚で読む
- 4~7周目は、見出し・太字・各章の最初と最後だけを「理解するつもり」で読む
- 8~10周目は、興味があるけど理解できなかった箇所をじっくり読む
ちなみに、何回も繰り返し読む方法については、『三国志・魏志』でも「読書百遍義自ずから見る」と言及されています。
これは「どんなに難しい本や文章でも、何度も繰り返して読めば自然と意味がわかるようになるもの」という意味です。
読書回転数を上げるのは、古来より受け継がれてきた効率的な読み方なのかもしれません。
最初の3周は、理解しようとせずに「ただ眺めるだけ」の感覚で読む
最初に3周「ただ眺める」ことによって、太字になっている文字や繰り返し登場するキーワードが何かを掴めます。
例えば、DXの本であれば「標準化」「AI・機械学習」「ビジネスモデルの変革」などの用語が何度も出てきます。
これらの用語を断片的でもいいので頭に入れていき、自分が知っている知識を結びつけると、内容を何となく予想できます。
「もしかして、AIを活用するにしても、データを整理整頓しなきゃいけない。データを整えるためには、そもそも業務フローが標準化されていないとダメってことかな」と予想するくらいであれば、本をパラパラ読みしただけでも可能です。
4~7周目は、見出し・太字・各章の最初と最後だけを「理解するつもり」で読む
4~7周目からは、本を理解するつもりで読んでいきましょう。
ただ、頭からじっくり全部読んでいくのも大変なので、ざっくり要所を読み飛ばします。
まず、本の骨子を理解すべく、章立てや見出しに目を通してみてください。気になる見出しがあれば、周辺の「太字の文章」も読んでみましょう。
よく理解できない箇所は手元にメモしておきます。8周目以降に理解するために、手元に控えておくのです。
では、太字箇所がない本はどうするのか?
その場合は、各章の最初と最後だけを読む方法もオススメです。
各章の最初には、その章で解き明かしたい問いや問題意識が書かれています。
そして各章の最後には、その章の結論やまとめが記載されているケースがほとんどです。
このように「見出し・太字・各章の最初と最後」だけに目を通すだけでも、本の内容をスムーズに理解できるでしょう。
8~10周目は、興味があるけど理解できなかった箇所をじっくり読む
8~10周目は、興味を抱いたものの理解できなかった箇所をじっくり読んでいきます。
8周目以降になると、本の主要や全体像はざっくり理解できる状態になっているはずです。
つまり、書き手と読み手の情報格差がだいぶ埋まってきた状態、といえます。
8周目以降は、先ほど「わからないな」と思って手元に控えたメモを見ながら、疑問点や不明点を解消していきましょう。
本の全体像やキーワードが頭に入った状態なので、1周目より理解が進みやすいはずです。
自分の言葉で「要約」する
ここでのキーワードは「要約」と「自分の言葉」の2つ。
要点=問い×答え×根拠
よく書評を書くときに「要約をしなさい」と教えられます。
ところが、この要約が難しい・・・
しかし、安心してください。
要約には、方程式があります。
要約は「要点」と「約する」の2つから成り立っています。
よく「約する=要点を選んで、文章を短くすること」に目が行きがちですが、こっちはあまり重要ではありません。
大事なのは「要点=本の大事な部分」のほうです。
要点を正しく理解できていないと、そのあとの作業が全て無駄になってしまうためです。
では、要点とは何かというと・・・
要点=問い×答え×根拠
この方程式で説明ができます。
問いとは、筆者が一番白黒つけたいと思っていることです。
「表紙」「はじめに」「おわりに」あたりを読んでみると、本が答えたがっている「問い」が見つかります。
具体的には、次の3パターンの形で、問いが表現されていることが多いです。
- 明確に「問い」の形(疑問形)で書かれているパターン
- 「本の目的は~である」と書かれているパターン
- 本を書くに至った「背景」の中に隠れているパターン
次に、答えを見つけていきます。
答えとは、先ほどの問いに対する答えです。
答えの探し方にも、いくつかパターンがあります。
- 「本のタイトル=答え」のパターン
- 表紙・背表紙に書いてあるパターン
- 「はじめに」か「おわりに」に書いてあるパターン
- 第1章の最後のまとめに書いてあるパターン
- 第2章の最初に書いてあるパターン(第1章に時代背景の説明が書いてある本は、この傾向があります)
- 第3章など中途半端な位置に書いてあるパターン(このパターンの本は、まわりくどくて冗長なものが多いので、あまり良書とはいえません)
最後に、根拠を見つけていきます。先ほど見つけた答えに対する根拠のことです。
例えば、ビジネス書などの実用書であれば、根拠は次の2パターンに分類できます。
- なぜ答えが正しいといえるのか?…Why
- 答えをどうやって実行するのか?…How
こう書くと「Howは根拠なのか」と疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。
しかし「Howに書かれている方法論が現実的かつ効果的であればあるほど、答えの裏付けとして機能している」と捉えることができます。
その意味では、Howの記載は、本の主張である「答え」を支える役割を果たしています。
したがって、WhyとHowの両方を根拠として扱っています。
・・・と、かなり概念的な話をしましたが、詳しい説明は以下の記事に書いております。
よろしければご参照ください。
自分の言葉で書く
本の要約を書くときのスタンスは2種類あります。
1つ目は、なるべく本で使われている表現をそのまま使うこと。
2つ目は、なるべく自分の言葉で表現すること。
これは、どちらが正解という話ではありません。
冒頭で述べた「書評を書く目的」によっても変わってきます。
ちなみに私は、「書評=自分の頭で考えるトレーニング」と位置付けているので、なるべく自分の言葉で書くようにしています。
というのも、本の表現はあくまで筆者の言葉であって、言い換えると「借り物の言葉」なんですね。
借り物の言葉のままだと、自分の頭で100%理解できているとは言えません。
本の教えの意味合いを100%理解できていないと、いざ教えを使うべき場面で、脳内の引き出しからクイックに取り出せません。
本の教えを血肉化させて、半自動的に使えるようにするには、借り物の言葉を「自分の言葉」へと変換する必要があります。
ちなみに、数百本の論文と50冊以上の書籍を出版している社会学者ニクラス・ルーマン氏という方がいます。
彼の著書『TAKE NOTES!』でも、「本の表現をそのまま書き写すのではなく、"自分の言葉"で書くことが大事」と主張されています。
書評で本の概要を述べるときは「自分の言葉」で書きましょう。
本の主張に対して、自分なりの「スタンス」を示す
本の内容を正しく理解したあとは、本の教えに対して、自分なりの「スタンス」を示しましょう。
スタンスとは、賛成なのか反対なのか、自分の立場を明らかにすることです。
例えば、古代ローマのセネカの著書『生の短さについて』では、次のような記載があります。
時間を残らず自分の用のためだけに使い、一日一日を、あたかもそれが最後の日でもあるかのようにして管理する者は、明日を待ち望むこともなく、明日を恐れることもない。
『生の短さについて 他2篇 (岩波文庫) 』より
多少強引ですが、「自分のためだけに時間を使いなさい。そうすれば、充実した人生を送ることができます」という主張だと読み取れます。
そして、この主張に対して、次のようなことを考えてみてください。
- この主張に対して、あなたは賛成なのか反対なのか
- 賛成にしろ反対にしろ、なぜそう思うのか
- 筆者とあなたの意見の似ているところ違うところは、それぞれ何なのか
- 以上の点もふまえ、あなたはどうしたいのか
この項目について考えるだけでも、「本を読んだうえでの自分のスタンス=自分の考え」を表明する準備ができます。
(必要であれば)フォーマットに沿って、書評を書く
ここまで材料がそろっていれば、あとは好きに書評を書いてみればいいんじゃないか、と思います。
しかし、「フォーマットがほしい」と思う方もいらっしゃるはずなので、いくつか型をご紹介します。
パターン①:特に印象に残ったことを3つ書く
オーソドックスで書きやすいパターンがこちら。
- 本と著者の紹介を一言ずつ
- 本の要約(自分の言葉で)
- 特に印象に残ったこと3つ(と印象にのこった理由)…★
特に★の部分が腕の見せ所です。
「なぜ、本のXXXという記載が印象に残ったのか?」を自分の体験談ベースで書けると、
現場感があるオリジナリティあふれる書評に仕上がるはずです。
そういえば、体験談ベースで書いた書評を寄稿したものがあったので、載せておきます。
パターン②:筆者と議論する
もっと考える力を鍛えたい場合は、以下のフォーマットで展開してみるのも手です。
- 本と著者の紹介を一言ずつ
- 本の要約(自分の言葉で)
- 本の意見と自分の意見の違い
-本の意見に対して自分はどう思うか
-本の意見の前提と、自分の意見の前提
-前提の違いはどこにあるか
例えば、ホリエモンの本に「嫌なことは断れ」という主張に対して、私が「いや、そんなの無理でしょ。嫌なことでも断れないよ」という主張を持っていたとしましょう。
この2つの主張の裏側にある「前提の違い」を探っていきます。
ホリエモンは、彼しか持ち合わせていないスキルや人脈がある…そんな替えの効かない人材だからこそ、嫌なことでも断れるのかもしれません。
一方の私は、特に周りから抜きん出たスキルもなければ人脈もない状況だとしましょう。だから、「嫌なので断ります」という主張が周りに受け入れられづらい。
つまり、両者の前提には「持っているスキルや人脈の違い」がありそうです。
・・・こんなことに思いを馳せてみるのも、書評の楽しみ方の1つかと思います。
この構造で書いた書評もいくつかございますので、具体例を1つ載せておきます。よろしければ、こちらの記事もご覧ください。
まとめ
以上、書評の書き方について
- そもそも書評とは何か?
- 何のために書評を書くのか?
- どうやって書評を書けばよいのか?
-本を読む回転数をあげてスムーズに理解
-要点=問い×答え×根拠を抜き出す
-自分の言葉で要約する
-自分のスタンスを示す
などのことを解説してきました。
少しでも「あ、この人がレビューしている本を読んでみようかな」「へー、そんな捉え方があるのか」と思ってもらえるような書評づくりに貢献できていますと幸いです。