iPod、iPhoneの開発チームを率いた伝説のエンジニアが伝授する、“世界を変える”プロダクトの極意!
・・・本の表紙には、このような謳い文句が記されていました。
「プロダクトづくりの高尚な方法論が書かれているんでしょ」
「iPodとかiPhoneを作る人なんて、きっと超が100個くらいつく天才なんでしょ。そんな天才の武勇伝を読んでもねぇ」
本屋に行くたびに、このような懐疑的な目線で、本書を眺めていました。
本屋に行っては、この本を手に取って、「う~ん、天才の自慢話っしょ、どうせ」と思って、本棚に戻す。
という行為を、おそらく3回は繰り返しました。
どうでもいい本であれば、おそらく、1度手に取って本棚に戻したら、二度と触れることはありません。
しかし、本書だけは、何度も本屋で手に取ってしまう。
おそらく、私の中で、言語化できない何らかのアンテナが引っかかったのでしょう。
そうやって、本屋でもじもじすること2か月、ようやく本書を読みました。
『BUILD 真に価値あるものをつくる型破りなガイドブック』、最高に良い本でした。
2か月間もじもじしたあげく、本書を手に取った自分を褒めてあげたいです。
『BUILD』とは?
本書は、iPod・iPhoneの開発チームを率いた伝説のエンジニア、トニー・ファデル氏によって書かれた本です。
iPod、今ではほとんど見かけませんが、ちょうど2000年前半ごろに「画期的な音楽プレイヤー」として注目されていました。
私も高校生のころに、買って買ってと親にせがんだのを覚えています。
そのiPodの開発責任者としてアップルに入社し、iPhoneも手掛ける活躍っぷり。
アップル社を去った後、トニー氏はネスト社を立ち上げます。
ネスト社といえば、今でいう「Google Nest Hub(Googleのスマートホーム用の機器)」の前身となる機能を開発した会社です。
まさに、私たちが普段の生活で当たり前のように使っているツールを開発した、レジェンドといえる人物でしょう。
そのトニー氏が語る「ものづくりの極意」とは何か?・・・出し惜しみなく500ページにわたって記されています。
では、本書が語る「ものづくりの極意」とは、いったい何なのか?
てっきりプロダクトを開発するための方法論が中心に描かれているのかしら・・・と思いきや、全くそんなことはありませんでした。
「つくる」というテーマで
①自分をつくる
②キャリアをつくる
③プロダクトをつくる
④会社をつくる
⑤チームをつくる
・・・この5つについて書き綴られていました。
特に印象的だったのが「自分をつくる」のパート。
本書からの学びを私なりに言語化してみたのが、次のスライドです。
「作業脳」と「仕事脳」のちがい
本書の第1部 第4章のタイトルが「下(ばかり)を見ない」なのですが、個人的にはこの言葉が一番印象に残っています。
一般社員(部下を持たない社員、ヒラ)は通常、当日あるいは一~二週間で完了すべき仕事を与えられる。ヒラの役割は細部を詰めることなので、たいていは上司や経営陣に目的地を設定してもらい、そこまでの道筋を示してもらったうえで仕事に集中する。
ただ下ばかり見ていると、目の前に迫った締め切りや仕事の細部しか目に入らなくなり、レンガの壁に突っ込んでいくかもしれない。
ヒラとして働いているときには、折に触れて次の二つを実践しよう。
『BUILD 真に価値あるものをつくる型破りなガイドブック』より
この「二つ」というのが
- 先を見る:次の締め切りやプロジェクト、さらには数ヵ月先までのマイルストーン、さらには最終目的地までを見据えたうえで、目の前のタスクに取り組む
- まわりを見る:自分が働くチームから離れてみる。社内の他の部署の人たちと話しながら、別の立場の視点やニーズを理解したうえで、目の前のタスクに取り組む
この2つと向きわず、とりあえず思考停止してタスクを進めるのが「作業脳」。
この2つと向き合い、徹底的に考えながらタスクを進めるのが「仕事脳」。
・・・ここが分岐点だなと。
先を見る
1つ目の「先を見る」について。
これは、「先にある目的を正しく見据えなさい」という意味だと理解しました。
目的を正しく見据える。これが当たり前のようで、なかなか難しい。
例えば、「ちょっとさ、社内のリモートワークの状況を調査してもらえないかな?」と頼まれたとしましょう。
このときに、「はい、わかりました、調査します」と簡単に仕事を引き受けてはいけません。これだと「作業脳」です。
きちんと「何のために、リモートワークの調査をすればいいんですか?」と聞き返しましょう。
そこで、すごく丁寧な方であれば、その場で明確に目的を言語化して伝えてくれるかもしれません。
しかし、そういう人ばかりとは限らない・・・
人によっては「うーん、コロナ禍でリモートワークを導入して、しばらく経つからさ。現状把握しときたいじゃない?」など、ふわっとした回答しかしてこないこともあります。
このときに「なるほど、わかりました」と簡単に引き下がってはなりません。
もう一歩、食いつきます。
「そのリモートワークの調査結果は、誰がどんな意思決定をするために使うんですか?」と。
そうすると、「役員が、"今後もリモートワークを継続するか、出社に戻すか"を意思決定するのに使うんだよ」と、正しい目的を把握できます。
ここまで目的を言語化できると、「いつまでに、どんな情報が必要か?どんな資料がまとまっているといいか?」を先回りして考えることができます。
まわりを見る
2つ目の「まわりを見る」について。
例えば、自分が営業チームの1メンバーだとすると、そこから1つ視座を上げると、営業チームのリーダーの目線に立てます。
すると、自分以外の他メンバーが何に困っていそうか、他メンバーはどんな工夫をしているか、などが見えるようになります。
さらにそこからもう1段視座を上げると、営業チームの隣には、サービス用のシステムを開発する開発部隊がいて、お客様から問い合わせを受けるカスタマーサポートの方々がいて…といったように、視野が広がっていきます。
このように視野が広がると、たとえ自分が営業チームの1人のメンバーだったとしても、顧客から聞いた声を開発チームに届けようとか、カスタマーサポートの方々が同じような問い合わせを受けていそうだから、営業する段階から機能の説明を丁寧めに行うとか。
そんなプラスアルファの動き、いわゆる「気が利いた動き」ができるようになります。
以上、「下(ばかり)を見ない」という章の1つの学びを切り取るだけでも、こんなにも熱く語りたくなる。
それくらい、不思議な熱量を帯びた良書でした。