「コンサルの3年間は、事業会社の10年間に匹敵する」
それくらいの濃さがあるコンサルの世界。
この世界に入りたてのころは、一挙手一投足について、膨大なフィードバックをもらうことになります。
「結論から話せ。まずは"結論から言うと"という枕詞を矯正ギプスとして使いなさい」
「まず質問に答えなさい。思いついた順に話すな。相手が聞きたい順に話せ」
「社員証をかけてランチに出かけるな。てか、昼は片手があく食べ物にして、机で仕事しろ。1時間で君にいくらのフィーが発生していると思っているんだ」
「パワポやExcelをいじっている時間は1円たりとも価値が出ていない。思考しろ、思考しろ、思考しろ」
「オープンクエスチョン禁止。必ず自分の仮説を持ってくること」
「新卒には一切期待していない。まあ1つ期待値を上回るとすれば、スピードくらいはせめて意識しなさいよ」
・・・みたいなやりとりが、冗談抜きで行われます。
こういったフィードバックを、タフな精神力で受け止め続け、自分の暗黙知として刻み込んで生き残った人たちが、コンサルとして自立していきます。
とまあ、こんな感じなので、振り返ったころには「暗黙知」になっちゃってます。
この暗黙知を「何が、なぜ大事で、どのようにすれば身につくのか」を丁寧に言語化している。しかも面白おかしく表現してくれているのが、
今回ご紹介する『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』です。
『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』とは?
本書は、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)を経て、「考えるエンジン講座」を提供するKANATAを設立された高松 智史さんの本です。
高松さんは他に『変える技術、考える技術』『フェルミ推定の技術』などのベストセラー本も出されていて、いずれも「コンサル時代に学んだことを、面白おかしく(もちろん戦略的に)」伝えてくれます。
私自身、高松さんの本(以下、タカマツボン)が好きすぎて、これまでの本のレビューも書いておりますので、よろしければご覧ください。
以前、Books&Appsさんへの寄稿記事で、神本『変える技術、考える技術』をご紹介しました。 【書評】たった一つの改善で30点から70点取れるようになる『変える技術、考える技術』が素晴らしい ... 続きを見る 「自分の頭で考えなさい」 こう言われて悩んでいる人に、心からオススメしたい本が2冊あります。 1冊目は『知的複眼思考法』。 20年以上前の本ですが、「あらゆる立場から問いを投げかける技術」を骨の髄まで ... 続きを見る
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タカマツボンのエッセンスが詰まった「議事録進化論」
本書『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』には、104の濃い技術が詰まっております。
・・・が、これら濃い技術が凝縮されているテーマがあるなと。
というのも、104の技術が340ページにわたって書かれているわけですが、議事録についての説明に一番ページ数が割かれていたんですね。
「議事メモ vs 議事録 vs 発言録」というパートなんですが、ここではいろいろな技術が登場します。
- 「たかが」構造化 vs 「されど」構造化
- 「答えのあるゲーム」より「答えのないゲーム」
- 「TASKバカ」より「論点バカ」
- 「自分のペース」より「24時間ルール」
- 「誰が言ったか」より「誰が活字にしたか」
こういったエッセンスがギュッと凝縮されているなと。
ということで、個人的に感動した「議事録進化論」を、私なりの振り返りもかねてご紹介します。
発言録のレベル(Lv1)
まず最初にクリアすべき壁は「会議で話された内容が、漏らさずに書かれているか」です。
ただ、これも超絶難しいんですよね。
新卒1年目なんかは、とくに知識が皆無ですし、緊張でガチガチですし、「会議を正しく理解すること」すら難易度S級なわけです。
ですから、ポンコツな私はというと、最初のころは「すみません、議事録を漏らさず書きたいので、録音させていただいてもいいですか?」と言って、録音を聞きながら深夜まで議事録を書いてましたね。
しかし、これはタカマツボンに言わせると、最もレベルが低い段階とのこと。
まだまだ、先は長い・・・
議事録のレベル(Lv2~4)
会議内容が漏らさず書かれている状態を突破すると、やっと「議事録」のスタートラインに立てます。
しかし、「議事録」にも3段階のレベルがございます。
Lv2:「話された内容」が構造化されているか
発言録は、あくまで「発言された流れ」のまま書かれています。
しかし、会議中の発言はあっちに飛んだり、こっちに飛んだりします。
したがって、「発言された流れ」のまま書かれていると、非常に読みづらい。
そこで、会議で飛び交っている発言を、議題とか何らかのキーワードによって構造化する必要があります。
Lv3:次のタスクが書かれている
しかし、会議の構造がわかりやすく示されているだけじゃ不十分。
会議は、次のタスクを明確にしてなんぼです。
であれば、議事録を見て10秒で「次、誰が何をやるか」がわかる状態にしなくてはなりません。
したがって、議事録のサマリー部分には「次のタスク」とか「意思決定されたこと」なかを書いておく必要があります。
こうしておくと、議事録に「人を動かす力」が宿ります。
Lv4:会議の「空気感」まで加味されています
会議の「空気感」まで加味する。
・・・この部分まで言語化されているのは、さすが高松さんだなと。
というのも、議事録で「賛成です」と書いてあっても、「全力120%の賛成」なのか「しぶしぶ賛成」なのかによって、ニュアンスがだいぶ変わります。
このニュアンスを、会議に参加していない人にもわかるように表現してあげなくてはならない。
ここまでやって、ようやく「独り歩きできる議事録」へと仕上がっていきます。
議事メモのレベル(Lv5~7)
本書を読む前は、ここまで書いてきた「議事録」のレベルまで満たせていれば十分っしょ、と思っていました。
しかし、そんな怠惰を許してはくれないのが、タカマツボンの魅力でもあり、愛でもあります。
実は、議事録の先の世界が待っているそうで。その名も「議事メモ」の世界。
Lv5:「想定していた論点」ベースで構造化されている
ここでも出てきました、構造化。
いったい、さっきの構造化と何が違うのか。
先ほど紹介した「話された内容で構造化する」とは、会議が終わったときに「事後的」にグルーピングする。そんなニュアンスです。ちょっと受動的な感じがします。
しかし、今回の「想定していた論点ベースで構造化する」とは、自分が会議前に思い描いていた論点をベースに構造化していくことを意味しています。こっちのほうがはるかに能動的です。
つまり、議事録ではなく「議事メモ」を書くためには、「この会議では、この論点に白黒つけたい。だから、こうこうこうやって議論をファシリテーションするぞ。主導権は我にあり」と思っておく必要があります。
会議の主導権を握っている人が書けるもの。それが「議事メモ」です。
Lv6:「仮説の進化」に力点が置かれている
会議の主導権を握ろうと思うなら、「会議を通して進化させたい仮説は何か」も明確にしておかなくてはいけません。
そして、事前に思い描いていた仮説が、議論を通してどう生まれ変わったのか?
・・・この点も表現できるレベルになれると、「議事録」の遥かうえの次元に足を踏み入れることができます。
Lv7:「ネクスト論点」までも書かれている
そして、「議事メモ王」になるための最後の壁は、「ネクスト論点」です。
会議が終わった瞬間には、「次に考えるべき論点(タスクではなく論点)」までクリアになっていること。
これこそが、議事メモ王に求められる要件です。
・・・と、私の振り返り目的で、個人的な解釈も入れながら書いたので、「もっと詳しい内容を知りたい」という人は、ぜひ『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』を手に取ってみてください。
応用すると「読書メモ進化論」も作れてしまった!?
さて、ここで終わってしまうと、本書でいう「議事録」の道半ばで終わってしまいます。
「議事録進化論」を語るだけでは、私の介在価値はゼロですから。
そこで、ここからはオマケということで、本書に着想を得た「読書メモ進化論」をお届けします。
ここまで既に3000文字書いてしまっていますが、まだ余力がある方は、もう少しお付き合いを。
ただの写経レベル(Lv1)
本で印象に残っていることを、そのまま書き写している。
これは、ただの写経のレベルです。
本の表現はあくまで筆者の言葉。言い換えると「借り物の言葉」です。
このままでは「自分の言葉」とは言えません。
例えば、読んだ本のなかで「論理より感情が大事だ」という教えが書いてあったとしましょう。
この言葉をそのままノートに書きうつすだけでは不十分です。なぜなら、借り物の言葉のままだと、100%自分の頭で理解できたとはいえないから。
ビジネス書の教えを自分のモノにするためには、自分の言葉で書き換える必要があります。
要約のレベル(Lv2~4)
写経レベルを突破できたら、「本で読んだことを、自分で語れる状態=要約」のレベルに突入です。
Lv2:「書かれていた内容(書き手の論点)」ベースで構造化されている
書き手の論点ベースで構造化する。
これは、次の方程式で構造化していく作業を指します。
書き手の論点=書き手が本を通して解きたがっている問い×問いに対する答え×答えを支える根拠
この方程式に沿って、本の学びを抽出できると、「書かれていていた内容を構造化できた」といえるでしょう。
このパートの詳しい話は、以下記事で詳しく解説しています。
(出典:https://unsplash.com/photos/0g-iLtxmMhA) はじめに 続きを見る
それ、本当に「構造化」といえますか?
Lv3:読後のアクションが書かれている
ビジネス書の学びを、要点をおさえたうえで、自分の言葉で理解できたとしましょう。
それでも、まだビジネス書を読んだ元を取れたとはいえません。
ビジネス書の教えは、実際の仕事で試してなんぼだからです。
したがって、「読んだ後に自分が取るべきアクション」も超具体的に書いておく必要があります。
Lv4:筆者が置かれている「文脈」まで加味して書かれている
しかし、本に書いてあったアクションをただ抜き出すのは危険です。
ビジネス書の教えは、筆者の「文脈」に依存しているからです。
例えば、日本を代表するマーケター森岡氏の『マーケティングとは「組織革命」である。』には、次のような記載があります。
かつて私も幼稚なクセがあって、自分の作る戦略やプランは完全無欠に練り上げてから上司のところに持っていき、上司からの質問や突っ込みを全て論破防御するスタイルを主としていました。
(中略)
中には、私が頼ったり巻き込んだりせずに剛速球を投げてくることが嫌でたまらなかった上司とも巡り合いました。その頃の私は、何のためにこの人は、そんな反論のための反論のようなくだらない質問ばかりしてくるのだろうとイライラしていました。
(中略)
今の私であれば、自分の提案にわざと穴をいくつか開けておいて、上司にそこを指摘させて感謝して訂正し、そのプランを上司の付加価値も含めた2人のプランにする、というような芸当もできるのです。
『マーケティングとは「組織革命」である。』より
ここで、「自分の提案にわざと穴をいくつか開けておいて、上司にそこを指摘させて感謝して訂正し、そのプランを上司の付加価値も含めた2人のプランにする」の部分だけを安易に切り取って実践してはいけません。
「よし、自分もわざと提案に穴を開けて、上司の承認を勝ち取るぞ」と意気込んで、穴の開いたプランを持って行ってみてください。
一般レベルのビジネス戦闘力しか持ち合わせていない場合は、上司から「なんだこの穴だらけの提案は」とボコボコにされるおそれがあります。
なぜ、こんなことになってしまうのか。
それは、「自分の提案にわざと穴をあけておく技術」は、圧倒的な論理的思考力を持っており、かつそのことが社内で広く認知されている森岡氏だからこそ成立するものだからです。
言い換えると、筆者の森岡氏の文脈に依存している、ということ。
この「文脈」まで理解したうえで、メモに書いておく。ここまでやる必要があります。
読書メモのレベル(Lv5~7)
ここまでは、まだ「ビジネスの書き手を正しく理解し、表現できる状態=要約」にすぎません。
先ほどの「議事録進化論」と同様、もっと上の世界があるはず・・・
Lv5:「想定していた論点(読み手の論点)」ベースで構造化されている
このレベルに達するためには、「本を読む前に、論点をクリアにしておく」必要があります。
例えば「社内で企画を進めるときに、経営層の承認は取れたものの、現場の課長レベルから強い反発があった」という困りごとに直面していたとしましょう。
このとき、すぐに「根回し」とか「企画の通し方」の本を手に取りたくなる気持ちをグッとおさえましょう。
そして「何がクリアになれば、この悩みを解消できるのか?=論点」を書き出します。
例えば、次のようなイメージ。
- そもそも、根回しはなぜ必要なのか?個人的には、面倒くさいから必要ないと思っている。しかし、実際のところどうなんだろうか?
- 失敗例のように「上位層が賛成し、現場が反対しているケース」では、どう根回ししておけば正解だったのだろうか?
- 自分の会社ならではの「合意を得るための根回し最短ルート」はなんだろうか?
ここまで論点を書いたうえで、本を読んでみてください。
そして、事前に書き出した論点に沿って、本から得た学びを書いてみる。
これこそが、「読み手の論点ベースでの構造化」ではないでしょうか。
Lv6:「仮説の進化」に力点が置かれている
これも「議事録進化論」にあった技術ですね。これを読書メモに当てはめてみましょう。
例えば、私は本書『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』を読む前に、次の仮説を立てていました。
「高松さんの考え方を読書に当てはめると、読書の質が爆上がりするのではないか」
・・・こんな仮説を立てていました。
そして本書を読んだところ「議事録進化論の構造を応用すると、読書メモ進化論ができるのでは」という仮説に進化しました。
まさに、この記事こそ、「仮説の進化」に力点を置いた読書メモとして書いているわけです。
Lv7:「ネクスト論点」までも書かれている
「議事録進化論」と同様に、「読書メモ進化論」の行きつく先も、「ネクスト論点」です。
本を読み終わった瞬間に「次に解くべき論点」をクリアにできていること。
今回の『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』を読み終わったとの論点は
「議事録進化論を応用した、読書メモ進化論とは何か?」です。
そして、この論点を検証しているのが、まさにこの記事です。
・・・と、こんな感じに本を読んで、メモを書いていくと、読書が見違えるほど面白くなります。
そんな読書法について、拙著『投資としての読書』では語っていますので、よろしければこちらも応援いただけると嬉しいです。
まとめ
ということで、ここまで6000字近く語っていますが、まとめると次の図に集約されます。
今回ご紹介した「議事録進化論」は、あくまで『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』に書かれている104個の技術のうち、たった1つにすぎません。
これくらい深い学びが、あと103個書かれていますので、ぜひ読んでみてください。
他の高松さん本が気になる方は、こちらの記事もぜひ。