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なぜを5回繰り返したら、壁にぶつかってしまった
「なぜ?を5回繰り返せ」
問題解決や思考力の本を読んでいくと、必ずといっていいほど登場するアドバイスだ。
では、アドバイスどおり、なぜ?×5回繰り返してみよう。
テーマは「会議の時間が長くなってしまうのは、なぜか?」。
素直に、なぜ?を5回繰り返して深堀してみると、次のような考察結果となった。
- 会議の時間が長いのは、会議の回数が多くなってしまうから
- 会議の回数がどうしても多くなってしまうのは、会議に予定が合わない人が多いから
- 会議の予定が合わないのは、会議をしないといけない対象者が多いから
- 会議をしないといけない対象者が多いのは、権限の設計が適切になされていないから
- 権限の設計がなされていないのは、権限を設計できる人(人材マネジメントに詳しい人)がいないから
なぜ?を5回繰り返したことで、「権限を設計できる人がいないこと」が本質的な原因だと判明した。
だから、打ち手は「権限を設計できる、人材マネジメントに詳しい人を雇うこと」である。
…どうだろうか。
筋の良い考察ができているだろうか。
おそらく、読み手のほとんどの方は、「本当にそれが本質的な問題なのか?」「だとすると、本当にそれが適切な打ち手か?」と疑問に感じたはずだ。
私もそう思う。
では、いったい何がおかしかったのだろうか?
- なぜ?を掘り下げる方向を間違ったのか?
- それとも、なぜ?の回数が足りなかったのか?
- それとも、最初の問いを「ミーティングの時間が長いのはなぜか?」にしたのが間違いだったのか?
いろいろと可能性が浮かび上がってくる。
この可能性1つひとつを潰すのは、なかなか骨が折れそうだ。
そう、「なぜ?を5回繰り返す」のは、けっこう難しい。
よっぽど手馴れていないと、この「なぜなぜ分析」で筋の良い考察を導き出すことはできないのだ。
どうだろうか?
みなさんも心当たりないだろうか?
ちなみに、ここまで述べてきた「なぜ?を5回繰り返す」は、私自身が苦手としている手法でもある。
「何とか、突破口を見つけられないだろうか?」
そんなことに頭を抱えたいたときに、私に助け船を出してくれた本がある。
今日は、その本のことを振り返ってみたい。
「Why not yet?」で本質に切り込む
なぜ×5回を上手く使いこなすことができずに、迷走していたとき、超優秀な友人がある本をすすめてくれた。
それが『コンサルを超える 問題解決と価値創造の全技法』だ。
500ページ以上ある大作だが、その中でもひときわ異彩を放っている記述があった。
それが「Why not yet?」である。
具体的には、本書に次のように書かれていた。
さて、WHY?を五回やって、問題の本質に迫ったとする。そして、「何が問題か」がわかった。ここでよくある間違いが、「では、それを取り除きましょう!」としてしまうことだ。例の「コインの裏返し」である。
本質的な問題でありながら放置されてきたのには、それなりの理由があるはず、そう簡単にいくはずがない、と考えるべきだ。
同様に、課題の立て方としてよくある間違いが、「こうすべきだ」という結論を出してしまうことだ。「〇〇すべき」というのは答えにはならない。「そうなったらいいね」という希望的観測でしかない。すべきなのは百も承知であるものの、そうなっていないから、問題なのだ。
WHY NOT YET? すなわち、「なぜ、まだそうなっていないのか?」を解かなければならない。
この「なぜできないのか?」を考えることが、問題解決のキモ中のキモとなる。
この文章を読んだときは、読んで字のごとく、手が震えてしまった。
この「Why not yet?」こそが、真に考えるべき問いだったのである。
別に「Why not yet?」がわかれば、無理になぜ?を5回繰り返すこともない。
それよりも「やったほうがいいとわかっていながら、なぜできないのか?」を考えることの方が何倍も有意義である。
冒頭に述べたような「会議の時間が長くなってしまうのは、なぜか?」の問いも、「Why not yet?」を考えると、違った考察が生まれるだろう。
「なぜ、権限移譲や権限の設計がなされないのか?」
よりも
「権限移譲や権限の設計をしたほうがいい。それは、経営陣もわかっているはず。なのに、なぜ今の状態のままなのだろうか?」と表現した方が、問いに深みが出る。
このように威力抜群の問いに進化させてくれるのが「Why not yet?」なのである。
「とはいえ?」を先回りする
「なぜ?を5回繰り返す」よりも効果的な問いがもう1つある。
それが「とはいえ?」である。
これは、さっきの「Why not yet?」をさらに深堀するときや、別の場面でも使うことができる。
この「とはいえ?」を教えてくれたのが、北野唯我さんの『ペインを探せ!-なぜあなたの提案は通らないのか?-内定者への手紙』である。
「とはいえ?」の意味は次のとおり。
とはいえの法則とは?
1つのやるべき理由に対して、3つの「とはいえ」(=やらない理由)がくっついていること。その結果、根本的課題に対して提案が通らないこと。したがってその「とはいえ」を前提に提案を作ること。
※本書のNo.581/1914より引用
例えば、先ほどの「会議の時間が長すぎる問題」について、次の打ち手を提案するとしよう。
- 会議の参加者は1回あたり5人までにする
- 会議の時間は最大でも30分以内にする
このルールを提案したとき、他の社員たちからは当然「やらない理由」「やりたくない理由」が飛んでくるはずだ。
この「やらない理由」「やりたくない理由」を見つけ出せる問いこそが、「とはいえ?」である。
この問いを使ったときも、なぜ?を5回繰り返すよりも早く、本質的な問題に辿り着けるときがある。
ぜひ「騙された」と思って使ってみてほしい思考法の1つだ。
「あの企業(人)にできて、自社(自分)にできないのはなぜか?」を考える
以上の問いを使っていく中で、もう1つ、私なりに「これは使えるぞ」と思える問いが見つかった。
それが「あの企業にできて、自社にできないのはなぜか?」である。
例えば、『amazonのすごい会議』には、次のような手法がオススメされている。
- ただの「情報共有」だけの会議はやらない
- 会議は、資料の黙読からスタートする
- 資料は、解釈の余地がないくらい、文章でクリアに表現する
この手法を、明日から自社にも当てはめることはできるだろうか?
当てはめることができないのであれば、それはなぜなのか?
amazonにできて、自社にできないのはなぜなのか?
これらの問いを考えると、自社の本質的な問題に気づける可能性を高めることができる。
なかなか効果的なので、こちらも「騙された」と思って、是非使ってみていただきたい。
その組織、その人「ならでは」の問題を嗅ぎ当てる
では、まとめに入ろう。
- Why not yet?
- とはいえ?
- あの企業(人)にできて、自社(自分)にできないのはなぜか?
特に「Why not yet?」「とはいえ?」について知りたい場合は、以下の書評もご覧になってほしい。
さて、ここまで紹介してきた問いには、ある共通項がある。
それは「ならでは」にフォーカスしている点である。
いずれの組織や人が「まったく同じ問題」を抱えているのであれば、ビジネス書に書いてある施策をそのまま実践すれば、大概の問題は解決するはず。
しかし、実際はそんなに簡単にはいかない。
なぜなら、A社にもB社にもC社にも当てはまらない、X社特有の本質的な問題が邪魔をするからだ。
このような、「ならでは」の問題を嗅ぎ当てるためには、一歩踏み込んだ洞察が必要になる。
今日は、その洞察を支えるツールたちを紹介した。
しかし、まだまだ道半ば。
なぜ?×5回のその先へ行くためにも、より一層、思考の幅を広げていきたい。