(出典:https://unsplash.com/photos/05A-kdOH6Hw)
以前、ある人に「チームワークはたし算ではなく、かけ算で発揮できる」と教わったことがあります。
- 1人ではできないことも、チームで挑めば、できるようになる
- お互いの弱みを補うことで、チームの力が底上げされる
- 1人ひとりの強みと強みを掛け合わせることで、チームの力は何倍にも強化される
- チームで力を合わせることで、1+1が3や10になっていく
私は、この考え方には反対の立場です。
「チームの力がかけ算で発揮されることはない。あくまでたし算にすぎない」
こんなスタンスです。
「いいチームで働いたことがないから、そんなことが言えるんだ」と反論が飛んできそうですね。
実はそんなことはなくて、
「これ以上なく、自分の力を発揮させていただいたチーム」
「面白いくらいに、自分の力が発揮できなかったチーム」
両方を経験したことがあります。
ですが、前者は「しっかりたし算をしきったチーム」で、後者は「たし算すらできなかったチーム」に過ぎない。
どういうことか。
お互いの強みを発揮しあえた話
まずは、「ああ、お互いの強みを発揮しあえたな。気持ちよく、楽しく働けたな」と思えた事例をピックアップしてみます。
とあるプロジェクトで「営業業務を効率化するためのITツール導入」を進めたときの話です。
このとき、Aさんとタッグを組みました。
私の能力値はというと、
- 議論・整理する力:10
- ITを実装する力:2
くらいでした。
一方のAさんは、
- 議論・整理する力:2
- ITを実装する力:10
営業業務の効率化ですので、まずは営業の方々と議論しながら、ITツールの要件や業務フローを固めていく必要があります。ここは、私がメインで仕切りました。
そのあとのITツールの作りこみをAさんにお願いして、爆速で高クオリティの成果物を生み出していただく。
その結果、営業現場の作業効率がすごい勢いで改善されました。
まさに、
- 私一人、もしくはAさん一人では絶対になしえなかったけど、
- お互いの強みを活かし、弱みを補いながら、気持ちよく仕事が進んでいった、
- かつ、大きな成果をあげることができた事例
といえるでしょう。
さて、この事例は、チーム力が「かけ算」で発揮されたといえるでしょうか?
いえませんよね。
2人の能力値をたし合わせた「24」の成果が出た。と説明するのが正しいでしょう。
- 営業の方々と、ITツールの要件や業務フローを議論。
ここでは、私の「議論・整理する力=10」を発揮しました。 - 1で固めた要件を、Aさんと一緒に話しながら、ITツールの実装方法を検討。
このとき、私は「ITを実装する力=2」なのですが、それでも十分Aさんは理解してくれました。
また、Aさんも「議論・整理する力=2」ですが、それでもスムーズに議論ができました。
お互いの弱みを、お互いの強みで補うことで、何とか「2+2=4」の価値を発揮。 - そのあとは、Aさんが「ITを実装する力=10」を発揮して、成果物を作り上げてくれました。
どうでしょう。「かけ算」の要素、ありましたか?
いずれも「たし算」で説明できますよね。
ただ、この「たし算」をきちんと実現することが、そもそも難しいわけです。
1人で働くと、「たし算」すらできない
仮に、さっきのプロジェクトに、私1人で挑んだとしましょう。
たしかに「議論・整理する力=10」なので、営業業務を効率化する施策や要件を固めることはできます。
しかし「ITを実装する力=2」しか持ち合わせていないので、固めた要件を実装できずに終わってしまうでしょう。
これだと、価値は「0」になります。
たし算すら成立しません。
逆にAさん1人で挑んだとしても、同じ結果が待ち受けています。
営業業務を効率化するための施策や要件が、いつまで経っても決まらない。
これだと、「ITを実装する力=10」が宝の持ち腐れで終わってしまいます。
ここに「なぜチームで働くほうが、効率がよいのか?」の答えがあります。
それは「たし算をちゃんと成立させるため」です。
「チーム力はかけ算だ!」という前に、確実に「たし算」を成立させる。
これが重要なんです。
「たし算」を成立させる方法を教えてくれる良書たち
ただ、「たし算」を成立させるのは、とても難しい。
もし私とAさんの仲が険悪であれば、これまた「たし算」が成立しなくなります。
では、どうすれば、「たし算がきちんと成立するチーム」を作ることができるのか?
その方法が書かれた本を2冊ご紹介します。
①『THE CULTURE CODE』ダニエル・コイル
本書のメッセージを端的に述べると、次の一文に集約されます。
最強のチームを作るためには、「安全な環境をつくる」「弱さを共有する」「共通の目標を持つ」の3つの柱が必要である。
こう書くと「え、本当に3つの柱だけでいいんですか?」と思われるかもしれません。
しかし、安心してください。
本書は、欧米の本らしく、膨大な研究結果で支えられています。
「安全な環境をつくる」「弱さを共有する」「共通の目標を持つ」
この3本柱が、「個の力を分散させず、きっちりたし算を成立」させるための重要なファクターだと思い知らされるはずです。
ちなみに、本書の監訳を担うのは、あの楠木建氏です。
面白くないはずがありません。
②『心理的安全性のつくりかた』石井 遼介
先ほどご紹介した3本柱の1つ「安全な環境をつくる」ために必要な「心理的安全性」。
その正体を知りたい場合に一番オススメなのが、石井遼介氏の『心理的安全性のつくりかた』です。
- 「気になったことがあれば、何でもいってね」といったのに、部下はなぜ何もいってこないのか?
- 心理的安全性を高めるうえで、変えやすいファクターと変えにくいファクターは何か?
- 心理的安全性を高めるために、マネジャーとして、あるいはメンバーとして、どんな努力ができるのか?
いずれも、チーム1人ひとりが自分の力を発揮するためにも、避けては通れない疑問です。
この疑問一つ一つに、本書はクリアな答えを示してくれます。
2021年の「読者が選ぶビジネス書グランプリ」でもマネジメント部門で受賞するなど、社会的にも注目されている一冊です。読んでおいて、百利あって一害なしでしょう。