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【要約・書評】『ダブルハーベスト』堀田 創、尾原 和啓

この本で解ける疑問は?

  • AIを戦略に盛り込んでいくために必要なことは?
  • 何度も稼ぎ続けるための思考法とは?

『ダブルハーベスト』とは

「 AI・人工知能」

このキーワードを聞いて、具体的なイメージを持つことができる人は、どれくらいいるだろうか。

また、AIにできること/できないことを明確に区別して話すことはできるだろうか。

あるいは、「AIなんて、まだ全然実用化されていないでしょ。遠い話だよね」と思っている人もいるのではなかろうか。

…こういった認識を改めてくれるのが、今日ご紹介する『ダブルハーベスト』です。

 

本書を一言で表すとすると「従来の競争戦略と、AIの活用・実装方法をミックスさせた、最先端の戦略論」です。

  • 従来の競争戦略でいう「事業経済性」を維持させるために、AIをどう活用していけばよいのか?
  • 「価値を提供する→顧客が増える→売上が上がる→データが増える→価値が上がる…」といった、利益を収穫するループ=ハーベストループをどれだけ回せるか?

こういった論点について、本書はクリアに答えを出してくれます。

では、本書のレビューに入っていきましょう。

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※★の基準は以下の通りです。
★★★★★:満足
★★★★:やや満足
★★★:普通
★★:やや不満
★:不満

わかりやすさ

「わかりやすさ」については、以下2つの観点で評価していきます。

  1. 本の内容が「体系的」に分解・整理されているか?
  2. 中学生や高校生でもわかる表現で書かれているか?

詳しく見ていきましょう。

本の内容が「体系的」に分解・整理されているか?

本書では、何度も継続的に稼ぐ「ダブルハーベスト」を作るためにおさえておくべき論点が幅広く書かれています。

1回読んだだけでは、各章のつながりを完全に理解することはできませんでしたが、2周くらい読むと、1~6章目までの内容が体系的に整理されてくる。そんな感覚がありました。

中学生や高校生でもわかる表現で書かれているか?

ITの専門知識を持っていなくても、AIについて理解できるようにかみ砕いて書いてあるので「AIとは何ぞや?」と思っている人でも理解しやすい内容でした。

OCRなどの専門用語もチラホラ出てきますが、気にしなくても読み進めることができます。

ただ個人的には、「OCRとは何か?」など、専門用語を深く調べながら読んだ方が、理解がより一層深まると思います。

深さ

「深さ」については、元コンサルっぽく「So what?」「Why so?」「How?」と問いかけながらレビューしてみます。

具体的には、以下の3つの観点で見ていきます。

  1. 他の本に無いような「あっと驚く洞察」がなされているか?(So what?)
  2. 主張の論拠は十分か?ツッコミどころが多すぎないか?(Why so?)
  3. 明日からすぐ実践できるほど具体的な内容か?(How?)

他の本に無いような「あっと驚く洞察」がなされているか?

冒頭にも述べましたが、「従来の競争戦略(事業経済性の築き方など)と、AI実装をミックスさせながら、新たな戦略を提言している点」は、他の本にはないポイントでした。

競争戦略と先端技術の両方を深く理解していないと、このような本は書けないはず。

それくらい、戦略と技術の具体と抽象を高いレベルで行き来している本でした。

主張の論拠は十分か?ツッコミどころが多すぎないか?

本書は、海外の先端事例や定量的な根拠を盛り込んであります。

中でも、20個を超える先端事例が詳細に記されている第2章は圧巻でした。

さすがに博士課程まで修了された方と、マッキンゼー出身者によって書かれている本だけ、説得力が高い仕上がりでした。

明日からすぐ実践できるほど具体的な内容か?

AIを取り巻くトレンドや戦略論などの話もある一方で、「ハーベストループを実装する9ステップ」など、具体的なところまで踏み込んだ方法論も書かれています。

中でも「従来のウォーターフォール型のプロジェクトマネジメントと、AIプロジェクトマネジメントの違い」は、他の本にない示唆を与えてくれます。

一方で、本書を読んだ後にもう一歩自分なりに解釈を加えないと、具体的なアクションに落とすのは難しいようにも感じました。

学び

本書では、「価値を提供する→顧客が増える→売上が上がる→データが増える→価値が上がる…」といったハーベストループを複数回す「ダブルハーベスト」が提唱されています。

このモデルを構築している企業は、何度も継続して儲けることができると。

そこで私も、身近な企業からはハーベストループを探してみようと思い、非常に簡単ではありますが、Googleのハーベストループを一部書いてみました。

それが以下の図表です。

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検索エンジンの性能を高めることで、顧客体験価値が上がり、Googleで検索を行うユーザーが増えていく。そうすると、データがどんどん蓄積されて、さらに検索エンジンの性能が強化される。

このループを回すことで得られた大量データを活用することで、今度はGoogle上に表示されている広告の効果も上がっていきます。すると、広告主の売上が上がります。満足した広告主はさらに広告費をGoogleに投じます。すると、Googleの売上が上がり、そこから生まれた利益が再度検索エンジンの性能UPに投資される。

以上のような複数のループを回しながら、G-Suiteや自動運転などにもシナジーを効かせているんだと思います。

ダブルハーベストではすまないような、複雑なループが回っていそうですね。

その何重ものループこそが、Googleの競争優位なのでしょう。

 

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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