この本で解ける疑問は?
- 改めて「いい会社」ってどういう会社?
- 「いい会社」にしていくための論点とは?
- 終身雇用や年功序列って本当に悪い制度?
- 「企業は社会の公器である」って古くね?
『「いい会社」ってどんな会社ですか? 社員の幸せについて語り合おう』って?
以前記事で紹介した『持続可能な資本主義』(新井 和宏著)を読んで、「いい会社って結局なんやねん?」「もっと1企業にフォーカスして、ミクロな視点で、いい会社について考えてみたい」と問題意識を持ちました。
そこで、『持続可能な資本主義』で紹介されていた企業の1つ「伊那食品工業」の塚越 寛会長が書いた本を発見したので、読んでみることにしたのです。
ひねくれものの私は、冒頭の疑問で触れた「終身雇用・年功序列なんてクソくらえ」と思っていましたので、半信半疑で本書を読み進めました。
その結果はいかに…
-Why-なぜ書かれたのか?
本書の「はじめに」では次のように述べられています。
毎年少しずつでも着実に成長し、利益を出す。たくましい会社でなくては、倒産する恐れがあり、社員を幸せにできません。一方で、成長や利益のために、優しさを失い、社員を酷使するようなことがあってはならないのも自明です。そんな針の穴に糸を通すような難題に、いかに答えていけばいいのか。
これに対する答えとして、私が提唱するのが年輪経営です。木の年輪が毎年、一つずつ増えて幹が太くなるように、企業もゆっくり堅実に成長していけば、急拡大に付きものの過度な負担を社員にかけることはない。給与も少しずつ引き上げていける。昨日より今日、今日より明日という末広がりの幸せをかみしめながら、経営者も社員も人間的な成長を目指す。それが企業を永続させる最善の方法だと思うのです。
果たして、今年80歳の私のこうした考えは、46歳の青野社長、37歳の出雲社長の二人にどう映るのか、真剣に語り合いました。(5ページ)
青野社長はサイボウズ(クラウドのシステム会社)、出雲社長はユーグレナ(ミドリムシの会社)といった最先端を走る企業の方々です。
一見「対極的」な経営者同士の対談形式で本書は構成されています。
しかし、結論としては「いい会社に必要な考え方」について、両者には「共通する考え方や原理原則」がいくつも見出されます。
そうした「昔も今も、業界問わず変わらない、いい会社に必要な考え方や原理原則を伝えること」が本書の目的だと、私は読み取りました。
-What-なにをすべきか?
では、「いい会社」にしていくための考え方や仕組みとは何か?
このテーマについて、次の章立てに沿って議論されています。
一部、紹介します。
Q1:職場を快適にするとどんないいことが起こるのでしょうか?
- 【要点1】掃除は無駄と軽視すれば多くを失う
- 【要点2】工場を潜水艦にしてはならない
Q2:売り上げや利益より大事なもの、やっぱりありますよね?
- 【要点3】経営の目的と手段を混同しない
- 【要点4】社是は会社が立ち返る原点
- 【要点5】経営も自然の摂理に従えばうまくいく
Q3:会社は絶対、永続しないとダメなのですか?
- 【要点6】会社経営も個人の人生も末広がりに
- 【要点7】長期的視点で備えれば危機に動じない
- 【要点8】価格の意味を考え直してみませんか
Q4:幸せを生む人事制度のツボを教えてください
- 【要点9】年功序列型の賃金は前提条件付きで
- 【要点10】非効率でも直接顔を合わせる意味
…(8ページ)
以上のように、各章立てが「論点」になっており、そこで出たポイントが【要点】として整理されている、非常にわかりやすい本です。
ですので、効率的な読み方としては
- 自分が興味のある「論点」から先に読んでみる
- まずは【要点】だけ読んでみる
…みたいな方法があるでしょう。
ただ対談形式の本なので、一回は通しで読むことをおすすめします。
さて、ここで出た一部の【要点】について、私自身も「腹落ち感」を持ちたかったので、図1のように整理してみました。
コンサルっぽく、「人材マネジメントのフレームワーク」を使って整理してみました。
ここで私なりに見えてきたことがあります。図2をご覧ください。
要点1~10を眺めてみると、内6つの要点は、経営戦略や人事戦略といった方針部分、つまり「経営者の思想部分」に分類されます。
何が言いたいかというと、結局のところ、「いい会社づくり」には「経営者の思想」が大きく影響しているということです。
ですので、会社選びの際にも、目に見えやすい「仕組みや制度」ばかりに着目するのではなく、目に見えにくい「経営者の思想」を見た方がいいんじゃないか、と私は思うわけです。
本書における【要点】は全部で16個あるわけですが、紹介できていない残りの6個も「経営者の思想」に分類される要点ばかりです。
残りの【要点】も驚くことばかりなので、続きが気になる方は是非手に取って読んでみては。
-How-どのようにすべきか?
さて、ここでは、私が本書を読む前に否定的だった【要点9】年功序列型の賃金は前提条件付きで、に触れてみます。
例えば、ソフトウェア業界の「サイボウズ」では「市場評価型賃金」が採用されています。
プログラマーの場合は、転職市場の相場と比較して、「こういうスキルを持った人は、他社では600万円で雇っているから、うちでも600万円に水準を上げよう」といった市場価値を用いた調整ができるのです。
一方、寒天メーカーの工場社員を評価しないといけない「伊那食品工業」はどうでしょうか?
「他社で同じスキルを持った人と比較…」なんて決め方は難しい業界です。
なぜならば、寒天を作る過程での「熟練の技術」というのは、他と比較しようがない、オンリーワンな技術だからです。
こうした「熟練の技術」は、師匠から伝承されながら、年を重ねるうちに上達するものであることが多い。
だからこそ、「年功序列型賃金」が活きてくるのでしょう。
ただ、市場評価と年功序列の両方において重視すべき共通項があるとして、筆者は次のように述べています。
雇用の流動性が高いソフトウェア業界と、そうではない製造業という業種の違いが大きいようですね。ただ、上司が部下を公平に評価できないという前提に立って、社員の満足度の高い人事制度にしようとしている視点は似ています。(115ページ)
いずれも、「人が人を公平に評価することはできない」という点を大事にされているみたいです。
- 業界の特性
- 評価の公正性
- 社員の満足度
…この3点を考えると、年功序列が合理的になるケースもあるということがわかります。
他にも、各要点を読んでいくと、「経営者の視点から見た、いい会社」が少しずつ掴めてきます。
そして何より本書の価値は「世代も業種も異なる経営者同士の対談形式」だと思います。
だからこそ、「最初から最後まで飛ばすことなく読んでほしい一冊」だと思います。
学び
本書で得た学びは次の2点です。
- 「目に見えるもの」ばかりに捉われてはいけない
- 常識に捉われないためのコツ
1. 「目に見えるもの」ばかりに捉われてはいけない
これは先述の図1と図2で述べたことから得た学びです。
私自身、就活時期は「福利厚生やユニークな制度」といった「目に見えるもの」ばかりを見ていました。
しかし、そういった制度の背景には、その制度の作り手の思想があるはずです。
「なぜ、そういった制度が作られたのか?」
その答えは、経営者の思想といった「目に見えにくいもの」を読み取る努力をしないといけません。
そういった意味では、働きたい会社かどうかを知るうえで、就活や転職活動における「役員面接」は非常に重要です。
あらためて、「目に見えにくいもの」を見ようとする大切さを実感しました。
2. 常識に捉われないためのコツ
冒頭でも述べたように、本書を読むまで、私は「年功序列」や「終身雇用」という言葉を一方的に嫌っていました。
「若いうちから活躍したい」「活躍した人から抜擢される環境に身を投じたい」という価値観を持っていたからでしょう。
事実、コンサルティング会社に入社し、「年功序列=非合理的な概念」という認識はさらに高まりました。
しかし、本書を通して「年功序列=合理的」になるケースもあることを知りました。
私も「年功序列=非合理的」という「一方的な常識」に捉われていた一人だったのです。
なんともショックでした。
ただ、このショックで学んだのは、「常識的な概念こそ、別の立場に立って捉え直してみるべき」ということです。
どういうことか?
例えば、今回の「年功序列」でいえば、
- コンサル業界から見た「年功序列」のメリット、デメリット
- 寒天などの製造業から見た「年功序列」のメリット、デメリット
…といった風に、「同じキーワードを、立場を変えて見つめ直すこと」が大事だと気づきました。
思えば、
…といったビジネス書の記事でも、言い回しは違えど、「別の立場に立って捉え直すこと」について触れてきました。
「常識を疑う」ためには、必須の考え方なのでしょうね。
明日から取れるアクション1つ
- 日経新聞で否定的(または肯定的)に扱われている「キーワード」について、真逆の意見を考えてみる