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【要約・書評】ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち

「もっと稼ぐために、教養を学ぶ」
「仕事で置いてけぼりにならないよう、教養を学ぶ」
「忙しくて時間がない中で、Youtubeを使って10分で教養を学ぶ」

一見すると、どれも真っ当な思考回路に思えます。
しかし「この教養の捉え方が行きすぎると危険である」と警鐘を鳴らしてくれる本があります。
それが、今回紹介する『ファスト教養』です。

「ファスト教養」とは何か?

まず、真っ先に気になることがありますよね。
「ファスト教養」とはいったい何なのか?

私なりに定義すると、ファスト教養とは、「意味がある」ではなく「役に立つ」から色々な知識や文化に触れること

・・・と、私の解釈はどうでもいいかもしれませんね(笑)
本書の見解を簡単に記しておきます。

ファスト教養なるネーミングは、筆者が「ファストフード」をもじってつけたものです。
ファストフードのように「栄養バランスを多少損ねるのと引き換えに摂取しやすい形(=ざっくり全体を手っ取り早く把握できれば、表面的な説明でも良しとする)」を是とみなす考え方、ってことですね。
なので、分厚い古典を長時間かみしめながら読むよりも、ざっくり全体像を10分くらいで理解できればOK。

では、何のために「手っ取り早く、ざっくり全体像を知りたいのか」というと、ビジネスで役立てるためです。
それも、「自なりのものの見方や骨太な思考力を身につけたい」ではなく「ビジネスの場面で、相手に話を合わせたい」くらいのニュアンスで。

山口周さんの『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』の表現を借りると、
「意味がある」ではなく「役にたつ」から教養を学ぶ、ということでしょう。

では、そんなファスト教養には、どんな利点なり留意点があるのか?

利点明らかでしょう。
本来は古典をじっくり読まなくてはいけなかったのが、Youtubeで10分動画を見たり、Twitterに流れてくる図解を見ておけば理解できるようになりました。
要は、情報処理のスピードが爆上がりしました。これに伴い、余剰時間も増えます。
さらに、動画なり図解を見て得た知識を入り口に「もっと学んでみたいな」と思うきっかけも生まれます。

うん、利点まみれです。いいことしかない。
・・・と思いきや、そうでもないみたいで。

留意点もいろいろあって、まとめると2点。
第一に、「わかった気」になってしまうこと。
知識を「自分なりの原理原則」に落とし込むには、読む→考える→実践→振り返り→読み直す→考える→実践…のサイクルを回しながら、じっくり熟成させていく必要があります。
しかし「じっくり熟成」と「ファスト教養」はあまり相性がよくなく・・・
生煮えの薄っぺらい文字列を「わかった気」になっておしまい・・・なんてことになるリスクに気を付ける必要があります。

第二の留意点は、他人を見下す言動につながるおそれがある点です。
「自称、教養のあるインフルエンサー」的な人が、非道徳的な発言をして炎上する、なんてシーンをたまに見かけます。
教養のある(風)な人が、教養のない人を見下してしまう・・・中途半端な教養を身につけると、そんな落とし穴にはまる可能性だってあります。
本来の教養は「未知のものへの畏れや例外的な出来事への配慮」「違う立場に対する想像力や思いやり」を養うもののはず。
しかし、中途半端に教養(もどき)を摂取すると、無意識に他人にマウントを取ってしまう副作用に陥りかねません。

これは、とあるMBAの教授が言っていた言葉ですが
「MBAはナイフと一緒。本来は料理に使うものだが、使い方を誤ると人を傷つけかねない」
・・・とおっしゃっていました。
この言葉とも通ずるものを、『ファスト教養』から学びました。

なぜ「ファスト教養」が生まれたのか?

では、なぜ「ファスト教養」がここまで普及したのか?
本書の筆者は「ファスト教養が広がる背景には、自己責任論に端を発する不安や脅迫がある」と考察されています。

2000年代前半、政治観点では小泉内閣のもと新自由主義にもとづく「自由と自律(≒自己責任)」を重視した政策が推し進められました。聖域なき構造改革という言葉も、1つのキーワードでした。
またビジネスの観点でも、ITバブルのもと若手起業家が台頭し、その筆頭のホリエモンが「時代の寵児」としてニッポン放送や野球球団の買収に挑んだ時期でもありました。

以上のムーブメントもあり、①自分の身は自分で守れ(他人は知らん)、②既得権益はぶっこわせ、③成功=金儲け、という空気が出来上がり。
その空気を吸って育った1980年代生まれのインフルエンサーたちが、今まさに「Youtube大学」「NewsPicks」「新R25」などを盛り上げています。
彼らの盛り上げもあり、個人でお金を稼いで生き残るための「ファスト教養」が普及しました。

・・・この背景文脈を鋭くシンプルに読み取っている筆者には、頭が上がりません。

どうやって「ファスト教養」を解毒すればよいか?

では、この「ファスト教養」とどう向き合えばよいのか?
本書では「第六章 ファスト教養を解毒する」という章で、この問いに対する見解が示されていました。

まず断っておくと、「解毒」と書いてありますが、決しては筆者は「ファスト教養」を否定してはいません。
ファストフードと同様で、適度に摂取するのはOKで、あくまで「暴飲暴食」することに対して警鐘を鳴らしているわけです。

では、どんな考え方を持っておくと、「ファスト教養」を適度に摂取できるのか?
本書では、次の考え方を教えてくれます。

箇条書きにすると、以下の考え方を持ったうえで、「ファスト教養」と向き合うとよいそうです。

  • 先に結論を決めることなく、思考のノイズになるものも取り入れ、「偶然」を楽しむ
  • 手軽さ・わかりやすさ・情報の正確性が両立していて、かつ「入門の先に広がる世界の深さ」を垣間見せてくれるコンテンツを選び取ることが重要
    例えば『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』や『イシューからはじめよ』みたいな本

どれも大事そうですが、特に【手軽さ・わかりやすさ・情報の正確性が両立していて、かつ「入門の先に広がる世界の深さ」を垣間見せてくれるコンテンツ】をどうやって選ぶか?が気になりますよね。
・・・ご安心ください(流れが無理やり)。
そういうコンテンツを選ぶ基準があります。

拙著『投資としての読書』でもご紹介しましたが、「わかりやすさ×深さ」のモノサシを使ってみてください。

わかりやすさを測るためには、以下の観点で本を見てみるとよいでしょう。

  • 本の内容が「体系的」に分解・整理されているか?
  • 中学生や高校生でもわかる表現で書かれているか?

加えて、深さを測るために、次の観点で、本に対してツッコミを入れてみてください。

  • 他の本に無い「あっと驚く洞察」がなされているか?(So what?)
  • 主張の論拠は十分か?ツッコミどころが多すぎないか?(Why so?)
  • 明日からすぐ実践できるほど具体的な内容か?(How?)

これらの問いに答えられる本こそ、【手軽さ・わかりやすさ・情報の正確性が両立していて、かつ「入門の先に広がる世界の深さ」を垣間見せてくれるコンテンツ】である確率が高いはずです。

あ、あと大事なことをお伝えし忘れました。
本書を読んで、個人的に一番大事だと思うのが・・・

私が書いた記事を読んで「わかった気」にならないでくださいね。

この記事も、いわば「ファスト教養」のはしくれ。
暴飲暴食には十分ご注意ください。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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