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【要約・書評】『忘れる読書』読んだ内容は忘れたほうがいい説

「忘れない読書術」

「読んだら忘れない読書術」

「記憶力を高める読書」

読書術のコーナーに行くと、必ず目に飛び込んでくるのが、これらのキーワード。


せっかく時間とお金をかけて読むのだから、本の内容は忘れたくない。

そう思うのは当然でしょ。疑うまでもない。

・・・と誰もが思うのではないでしょうか。


しかし、そんな常識をぶっ壊す本が登場しました。

落合陽一氏の『忘れる読書』です。

『忘れる読書』とは?

本書は、筑波大学准教授、ベンチャー企業の代表、メディアアーティストなど様々なフィールドで活躍されている落合陽一氏の本です。

「デジタルネイチャー」などの新しい考え方を次々と世に発信している落合氏ですが、そんな著者の思考のバックボーンは読書によって形作られているそうです。

学生時代には1日1冊、年間300冊以上のペースで読書。

しかも1冊1冊が古典・哲学・経済・科学といったディープな本ばかり。

いったいどんな本の読み方をすれば、あそこまで深く広い思考力が手に入るのか?

そんな疑問に答えてくれるのが、この『忘れる読書』です。

私なりに理解したことを、ペライチにも整理しておきました。

本で読んだことは、忘れたほうがいい?

では、「忘れる読書」とは何なのか。本書では次のように記されていました。

これからの時代、クリエイティブであるための知的技術は、読後に自分の中に残った知識や考えをざっくりと頭に入れ、「フックがかかった状態」にしておくことです。
何となくリンクが付いているような状態で頭の片隅に残しておけば、いずれ頭の中を「検索すれば」わかるからです。

(中略)

本全体の10%くらいが頭に残るぐらいでちょうどいい、というのが私の感覚です。

だから学生に論文の読み方を指導する際も、「覚えることより忘れる能力が大切」とよく言っています。読んだ内容を細かく思い出せるうちは、単に著者の主張を頭の中でリピートしているだけで、それは自分の頭の中に「入った」とは言えないからです。

『忘れる読書』より

本の内容をいろいろと思い出せるうちは、その著者の考えを頭の中でリピートしているだけであって、自分の頭で考えたとはいえない。

・・・なんとも辛辣な指摘です。

どうでしょう、皆さんはこの指摘、納得できますか?

だって、これまで読んできた読書術の本には「一生忘れない読書」と教わってきたんですよ。

それを急に「忘れなさい」と言われても、そう簡単に納得できませんよね。


しかし、ここでダメ押しの一発を。

実は、落合氏と同様の指摘を1800年代に行っている方がいらっしゃいます。

ドイツの哲学者ショーペンハウアー氏です。

氏の『読書について』には、次のように記されています。

真実と生命は、もともと自分の根っこにある思想だけに宿る。私たちが本当に完全に理解できるのは、自分の考えたことだけだからだ。本から読みとった他人の考えは、他人様の食べのこし、見知らる客人の脱ぎ捨てた古着のようなものだ。

『読書について』より

「おいおい、言いすぎだろw」と思いますが、確かに一理あります。

いくらマーケティングの本を読み漁って「顧客視点が大事である」と学んだとしても、上司から「顧客視点で考えろ」と言われたとしても、顧客視点で考えられるようになるわけではありません。

「何をどう考えたら、顧客視点で考えたといえるのか」を自分の頭で考えてのみ、「顧客視点で考える」の意味を理解できます。

読んだ本について、自分の頭で徹底的に考える。

自分の頭で考えたことは、身体の一部として刻み込まれるので、わざわざ覚える必要もない。

「覚えなきゃ」と思っている段階では、まだその知識や考えは「他人のもの」のままである。さっさと「自分のもの=持論」にしてしまって、「他人のもの」は忘れてしまいなさい。

・・・概念的には、こういったことを落合氏は言いたかったのではないか、と理解しました。

どうやって、本の内容を身体に刻み込むか?

本書では主に3つの読み方が紹介されていました。

ザッピング読み

ザッピング読みとは、興味があるところだけ、つまみ食い的に読む方法です。

本は、最初から最後まで全部読む必要はなく、興味を持った箇所だけつまみ食いすればよい。

すでに『理科系の読書術』などの本でも指摘されていることではありますが、こうやって落合氏も後押ししてくれると、説得力が増しますね。


特にハウツー系の本であれば、自分の仕事上の課題に関係ある箇所だけ読んで、さっさと実務で試したほうが効率的だなと思います。

周回読み

周回読みとは、じっくり最初から最後まで読むのではなく、何回もパラパラ読みする方法です。

パラパラ読みを繰り返していると、「どの話がどの辺に書いてあるか=本の全体像」「繰り返し出てくる言葉は何か=キーワード」をざっくり把握できます。

ちなみに私は、難しい本を読むときは、まず3周ほどパラパラ読みをします。最初の3周は、理解しようとせず、ただ「眺める」意識で、ページをパラパラとめくります。

4周目以降は、「理解しよう」と思って読みます。4周目になってくると、なんとなく本の全体像やキーワードが頭に入っているので、スムーズに読み進められます。


『三国志・魏志』でも「読書百遍義自ずから見る」と言及されています。これは「どんなに難しい本や文章でも、何度も繰り返して読めば自然と意味がわかるようになるもの」を意味しています。

周回読みのように「繰り返し何回も読む」という方法論は、古来より効率的な読み方として愛されてきたのかもしれません。

較べ読み

較べ読みとは、何かと何かを対比させながら読む方法です。

例えば、新しい本と古い本を対比させたり、自分の考えと本の考えを対比させたり。


ちなみに個人的によくやっているのが、「二項対立」を見つけながら読むこと。

読書をテーマにすると

「積読推奨派vs積読否定派」

「速読vs熟読」

「本の内容を忘れるvs覚える」

など、二項対立を頭に描きながら読んでいくと、複数の考え方を比較しながら理解を深めることができます。


以上のような読み方を通して、とにかく「自分の頭で考える工程」を必ず差し込む。

そうすると、本からの学びが「身体の一部」として刻み込まれるため、わざわざ暗記する必要もなくなる。

身体の一部として刻み込まれなかった知識たちは、いつでもググれるのだから、潔く忘れてしまう。

・・・そんなことを、『忘れる読書』から教わりました。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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